工業用 2024年04月26日

ポテトサラダも、クリームも、セメントもOK! 接着剤も問題なく吸い込んで運べる凄いポンプについて聞いてきた

  あなたがコンビニやスーパーで買ってきたその食品。ほとんどが、ある会社が作るポンプを通して製造されています。もし、そのポンプがこの世から無くなってしまったら、多くの食品の製造が困難になり、今のように気軽に買ってきて食べる事が出来なくなるかもしれません。
 このポンプでさまざまな液体が運べます。
 そのポンプが運べるものは、食品だけではありません。砂利の混ざったボソボソとしたセメントや、粘りのあるドロドロとした洗顔クリームのような、通常のポンプでは詰まったり、張りついたりして運べないものでも運ぶことができます。もちろん、ネバネバした接着剤でも大丈夫です。
 
その凄いポンプの名前は、モーノポンプ。開発、製造している会社に行って、その構造や性能、活用されている分野など、色々聞いてきました。

何でも運べるポンプを作る、オンリーワンの会社

左から杉野さん、佐藤さん、吉田さん。よろしくお願いします。
 訪問したのは、モーノポンプやモーノディスペンサーの開発、製造・販売を行う兵神装備株式会社です。対応いただいたのは、技術部長の杉野さん、東日本営業部ディスペンサーサポートチームリーダーの佐藤さん、東日本営業部ディスペンサーサポートチームの吉田さん。モーノポンプの専門家集団に集まっていただきました。
 
ちなみに、ちょっと強そうな感じの会社名ですが、本社が兵庫県神戸市にあるのでこの名前です。
 モーノポンプの原理は、フランスのR・モアノ博士が1930年代に航空機エンジンのスーパーチャージャーを開発中に発明した「一軸偏心ねじポンプ」と同じです。兵神装備の創業者である小野恒男氏は、通常のポンプではすぐに詰まり、吸い上げが難しかった、砂が混ざる炭鉱内の湧水や、船底に溜まる油汚泥の排出に、このポンプが使えると確信します。
 
一軸偏心ねじポンプを作るドイツの大手メーカーとライセンス契約を結んだ小野氏は、1968年に兵神装備を設立し、輸入販売を開始しました。その後、自社で製造を行うようになり、半世紀以上にわたり「モーノポンプ」を開発、製造しています。
 杉野さん達の話によれば、かつては一軸偏心ねじポンプを作る会社が日本国内にも幾つかありました。しかし、運ぶものに合わせて最適な条件でポンプを設計、製造するには多くのノウハウが必要であり、メンテナンス対応も大変なため、全て撤退してしまいました。一軸偏心ねじポンプの専業メーカーは、現在国内では兵神装備のみだそうです。
 
ジャム、はちみつ、ポテトサラダ、コーンスープ、ホイップクリーム、もずくといった、ネバネバ、ドロドロ、ツブツブ、プクプクした食品は、通常のポンプでは決まった量を正確に運ぶことが困難です。大量生産の為には、モーノポンプが必要になります。コンビニやスーパーで買ってきた食品の多くがモーノポンプを通っているのはその為です。

モーノポンプの性能、内部の構造

 それでは、実際にモーノポンプが動いている様子を動画でご覧ください。
 左下の筒状の部分がポンプの心臓部です。下の容器に入ったドロドロしたクリームを吸い込み、左から吐出して元の容器まで戻しています。
 おでんの練り物の原料などを定量で運ぶことができます。
 こちらは、手で持てるぐらいブヨブヨしたものを下から吸い上げ、正確な量に分けて運ぶモーノポンプです。こちらも動画で動きをご覧ください。
 通常のポンプなら吸い上げることが難しい液体でも、モーノポンプでは吸い上げて運んでいます。説明によれば、「手で握って指の間から出てくるようなものなら、モーノポンプで運ぶことができます!」とのこと。固形物が混じっていても問題ないそうです。詰まることなく運べます。
 モーノポンプの断面図。(画像提供:兵神装備株式会社)
 こちらがモーノポンプの内部の構造です。ローター、ステーターの部分で吸い上げて運んでいます。ローターは、金属やセラミックで出来たらせん状(1条の雄ねじの形状)の棒の部品です。ステーターは、ゴムや樹脂などの素材に、らせん状の穴(2条の雌ねじの形状)が開いる部品です。ローターをステーターに挿入すると、「キャビティー」という一連の独立した閉じられた空間ができます。ローターを回転させると吸い込み口となるステーター端部には、次々に新しいキャビティーが形成されます。その際、端部には強い吸引力が発生するので、粘度の高い液体や固形物を含んだ液も、新しいキャビティー内に吸い込むことができます。そうして作られたキャビティーがポンプの吐出方向へ進行することで液を移送できます。
 キャビティーの移動(画像提供:兵神装備株式会社)
 内部の動きがわかるこちらの動画をご覧ください。
 ローターとステーターの形状により、なぜこのような動きになるか、イメージするのはなかなか難しいと思います。兵神装備のホームページには、モーノポンプの構造、原理を動画や画像で詳しく解説しているページがありますので、構造、原理をより詳しく知りたい方はこちらを参照してください。
移送する液体に合わせて色々な素材で作られたローターとステーターがあります。
 このような構造、原理のモーノポンプには以下のような特長があります。
 
・無脈動・定量移送ができる。
・さまざまなな液体を傷めずに運べる。
・高い吸引能力を持つ。
・正逆運転が可能。
・吐出量を自在に制御できる。
・分解掃除がしやすい。
 脈動とは、吸い上げて吐き出す動作が一定の間隔で途切れることです。例えば井戸水を組み上げるようなポンプは、弁が上下して吸い上げてから吐き出すので、水が沢山出たり、出なかったりします。モーノポンプは吸い上げるキャビティーが連続してできるので、吸い上げが止まる事がなく、回転速度が同じならば常に同じ量が運ばれていきます。
 
また、回転速度に応じて運ばれる液体の量が変わるので、回転速度を制御すれば吐き出す量を自在に変えることができます。
 
キャビティーに吸い込まれた形のままで運ばれていくので、運ぶものを傷つけません。唐揚げ用の鶏肉や、養殖魚に与えるエサの鰯でも傷つけずに運べるそうです。吸引力も、水なら8.5mの高さまで吸い上げることができます。
 味噌、からし、わさびのようなものも運べる。映像はからしの硬さに合わせたダミー液です
 正逆運転が可能とは、ローターの回転方向を反転させることで、吸う側と吐き出す側を変えることができる特長です。これにより、一瞬だけ吐き出しと吸込みを変えることで、粘りの強い液体でもノズル口から綺麗に切ることができます。
 
ステーターは、ねじを回すように回転させればローターから外れるので、簡単に分解洗浄ができます。工場で使用する食品製造装置では、日々の洗浄が重要であり、分解洗浄できる点は重要な機能です。

ポンプとノズルの動きで複雑な形状で吐き出すことができる

 食品も工業材料も、自在に量を変えて安定して運べるモーノポンプですが、通常は地面に対して水平に置かれています。ある時一人の技術者が、これを縦にして使ったらどうだろうかと考えました。

 接着剤の塗布にも使われるモーノディスペンサー。
 その結果出来上がったのが、モーノポンプの応用製品であるモーノディスペンサーです。食品や電子部品、自動車などの製造現場で活躍しています。
 
通常のポンプでは運べないようなさまざまな液体を、脈動なく定量で運べる点は、モーノポンプと変わりません。ポイントは、幅や量、形などを自在に変えて塗布できる点です。
 モーノディスペンサーに使われる最小のローターとステーター。直径はわずか0.6mm。
 近年電子機器の小型化、薄型化が進み、使用される電子部品も、ゴマ粒ほどの小さな物が多く使われています。そのような部品を電子基板に取り付ける際には、粘りのある特殊な材料を用いる場合があります。それを小さな接着面に正確に塗らなければなりません。
モーノディスペンサーでの塗布サンプルです。
 モーノディスペンサーを使えば、粘りのある液体であっても、少量を正確に定量で塗ることができます。また、2液を決まった量で混合して使用するような接着剤でも、2台のモーノディスペンサーからそれぞれの液を決まった量で送り、各液を同じノズルから出すことで、混合しながら塗布することも可能です。
2液型の接着剤やシリコーン樹脂を塗布することができます。
 ノズルの形状を変えることで、平面に均一に塗布することもできます。モーノポンプは脈動が無く、定量で運べるので、スリット状のノズルを取り付けるとカーテン状に液体が出てきます。
 工業製品では、金属が混ざったザラザラとした液体を、薄い膜状にして塗りつける工程が必要なものがあります。例えば、スマートフォンに入っている薄いリチウムイオンバッテリーの製造です。電池の材料を薄い膜にして、折り返しながらバッテリーの形にします。
 
杉野さん達の話によれば、世界のバッテリーマーケットのほとんどのもので、モーノポンプ、モーノディスペンサーが電池の材料を運んでいるそうです。
 
また、特殊なノズルを取り付けて制御することで、こんな塗り方をすることもできます。
 粘りの強い液体を平面に自由な形で膜状に塗る技術です。電子基板の上に決められた形で接着剤を塗布する際や、四角い薄焼きのクッキーにクリームを挟んだようなお菓子を作る際に使われています。
 ノズルをレールの移動に合わせて回転制御して穴の位置を変えることで自由な形ができます。
 挟まれた部分全体に均一な層を作る場合、丸い形状のものならば、定量を中心に落として上から押しつければ、丸く広がって均一な層が作れます。
 
四角や楕円形のものに均一な層を作るとなると、広がり方を考えて上手く全体に塗らなければ、クリームが入っていない部分が出来てしまいます。
 
滝のように上から全体に流して作ることもできますが、そうすると流れ落ちた部分がロスになってしまいます。どんな形でも、ロスなく均一に全体へクリームを入れて量産するには、モーノディスペンサーが欠かせないのです。
 顔の形に合わせてジェル状の素材で作られたマスク
 実際に製造はされていませんが、美容マスクに使うジェルをそれぞれの人の顔に合わせて作ることも、この技術で出来るそうです。
 
液体を選ばず、脈動無しで定量塗布。吐出量を制御することで大きさも形も自由自在。モーノディスペンサーが無ければ作ることが難しい製品が数多くあります。よくテレビで、食品工場潜入のような番組がありますが、かなりの確率でモーノポンプ、モーノディスペンサーが写り込んでいるそうです。兵神装備の製品は、通常見かけることは無い製品ですが、生活に深くかかわっています。
 自動車に使われる接着剤の塗布にはこのような多関節ロボットが使われます。

兵神装備株式会社の今後の展望

兵神装備には、「こんなものをポンプで運べないか?」と、お客さまからの相談が多数くるそうです。
 
例えば、粘土。車のデザインを行う際には、粘土で実物大の模型を作ることがあります。今は人手で粘土を積み上げて行っているものを、ポンプで運んで自動化できないかとの相談です。モーノポンプは粘土も問題なく運べます。近年では、建物を作る大型の3Dプリンターがあります。材料となるモルタルをポンプで運べないかとの相談も来ています。もちろん、これも問題ありません。石の混ざったモルタルでも、正確に定量で運べます。
 
兵神装備では、お客さまが困っているものや、運ぶことができないと思っているものでも対応するのがポリシーだと、杉野さん達は話します。

 「私たちは移送、塗布、充填のコンシェルジュです!」と話す兵神装備の皆さんです。
 「今までは困った時の兵神装備という事が多くありました。困ったな、兵神装備さんに頼めば何とかしてくれるよ。そんな立場でした。そこは今後も当然続けていきます。
今後は、セメダインさんのような液剤メーカーや材料メーカーと組んで、初期の段階からお客さまに声をかけていただけるようにしていきたいです。そうすれば、お客さまの製品を作る際に、最も効率がよく、低コストで高性能な設備に仕上げることができます。私たちが移送、塗布、充填のコンシェルジュになる。そう言い続けています。」
 
兵神装備では、今後は食品や自動車、化学、電子、環境分野などに加え、再生可能エネルギー分野といった新たな分野にもビジネスゾーンを広げていくことを検討しています。今まで以上に、モーノポンプ、モーノディスペンサーが関わったものに触れる機会が増えていきそうです。
 

ライター:馬場吉成
工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていました。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/

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