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工業用
2022年11月04日
ソニーとDJIのドローンを分解。その特徴とは。
ドローンは年々多機能化が進んでいる。最初のドローンは飛ぶだけであったが、2010年代中盤からの多くのドローンは空撮をメイン機能にしたものになっている。その後に開発された高機能なドローンには墜落しない、衝突しないという機能も備わっている。また、GNSS(GPS)で自分の位置を常時捉えながらフライトを行うドローンも存在する。
現在では多くの機能を組み合わせることで隊列フライトなども可能になっており、今後は物流や人間の目の代わりとして多くの業務に使われるようになっていくことは間違いないだろう。
2021-2022年の代表的なドローンとして3件を取り上げ、最新ドローンの特徴を解説する。
1機種目はSONYの高機能空撮用ドローン Airpeak S1。価格は100万円以上と高価なものとなっている。
機体はプロペラ無しの状態で幅が約60cm、奥行きが50cm強ある大型機。
墜落や衝突が起こらないように常時周囲を監視する構造になっている。自動運転の車に必須となるADAS(先進運転支援システム)とほぼ同じ構成となっている。
衝突回避用のカメラは前方、左右、後方、下部の5か所設置されており、各々が2個のセンサーを持つステレオカメラになっている。ステレオカメラ5基、計10個のセンサーで周囲を常時監視しながらフライトするわけだ。
図には掲載していないが、カメラセンサーだけでなく常時距離を測る超音波ソナーセンサーも2基搭載されている。ソナーセンサーは下部と上部に1 基ずつ搭載されている。さらに機体の向きや速度、方向などを常時監視するための6軸センサーが2基搭載されており、3軸角速度センサー2つで構成されている。
常時動きや周囲を監視するというセンサーの塊がSONY Airpeak S1だ。
機体の最上位のカバー裏にはGNSSレシーバー(GPS)が搭載されており、位置情報も取得することができるようになっている。最近のドローンはSONYのAirpeak S1だけでなく多くがセンサーで周囲を常時監視しながら墜落や衝突を起こさないものになっている。
ドローンは4か所のモーターでプロペラを回すことでフライトができるが4つのモーターの回転を各々同時に制御することでホバリングや旋回、上昇、下降ができるようになっている。モーターを制御するためにはマイコンが必要なのでモーターの付け根にはコントロール用の基板が備わっている。
またモーターを回すためには電力が必要なのでモーターに電力を供給する電源基板、電力を最大化するためのパワー半導体などが必要となっている。
ドローンには4基のフライト用モーターがあることは周知だが、ドローンにはカメラ周囲にもモーターが入っている。空撮用のカメラの向きを変えるためのジンバルモーターである。
カメラの向きををワイヤレスコントローラで変えることができるものが多い。カメラ向きを上下に変えるチルト用モーター、カメラの角度を左右に変えるロール用モーターである。より良い映像を撮影するため、最新の高機能ドローンでは必須のものだ。
ドローンはフライト用4基のモーターに加えて、カメラジンバル用のモーターが備わっているのでモーターの塊とも言ってよいだろう。センサーの塊、モーターの塊というのが現在のドローンの特徴である。
MAVICmini3 Proはネームの通り、ミニサイズで折りたたんだ状態では手の平に乗る大きさとなっている。ただし、折りたたまれたアームを広げ、プロペラを装着すると30cmほどのサイズになる。ミニサイズだが大型機に劣らない高度な空撮を行うことができるものとなっている。
図3右側は内部の機能を一式分解して取り出した様子である。内部は先のSONYのAirpeak S1とは異なりミニサイズだけあって全てが小型化されている。SONYではプロセッサ基板、コントロール基板、電源基板の3枚がそれぞれ分かれて存在していたが、mini3 Proではメイン基板はプロセッサ、コントローラが搭載されたものになっている。GNSS(GPS)基板と、電池基板などがメイン基板に接続される構造だ。
さらにメイン基板には衝突回避用の周辺を常時検知するためのセンサー基板が2枚備わっており、各々がフライト方向の前方や下部を観察する。SONY Airpeak S1は左右、後方も常時検知しているがMAVIC MINI3 Proは後方や左右は検知できないものとなっている。カメラはロールとチルトに加えてカメラ自体を回転させることのできるパン用モーターが備わった3軸ジンバル構造になっている。撮影できる範囲は大きい。
カメラ用にモーター3基、フライト用にモーター4基の計7基のモーターが搭載されている。
ドローンを飛ばすためには最低でも3つの機能半導体が必須である。
1つ目はモーターの回転速度などを制御するためのマイコン、2つ目はフライト制御や衝突回避のための様々なセンサーから入ってきたデーターを処理し、空間認識処理、回避処理などを行うプロセッサ(CPUや画像処理)、3つ目はワイヤレスコントローラでの制御やスマートフォンに空撮映像を無線で伝送するためのWi-Fiチップである。
トイドローンなどではテレビリモコンなどで使われる赤外線通信のものもあるが、近距離しか使えない。またデーターが大きい映像を送ることができないので、現在のドローンの多くは、2.4GHz、または5.8GHzのWi-Fiを使っている。
VRやARのように眼前に空間が広がって見えるようになるゴーグルがドローン、ワイヤレスコントローラに追加されている。
FPVはドローンのカメラが捉えた映像をゴーグルでそのまま見ることができるので、まるで自分がフライトしているような映像をリアルタイムで見ることができるものとなっている。
さらに狭所で人間が入ることができない場所にもドローンが入って映像を見ることができるので、調査や産業用にも活用できるものとなっている。
ゴーグルの内部は図5の右上のような構成だ。ドローンのカメラ映像をWi-Fi通信で受け、プロセッサで2枚のディスプレイに描画する処理を行う。プロセッサと通信チップを搭載した基板と左右の目の前に設置されるディスプレイが2枚という構成である。ワイヤレスコントローラはWi-Fi通信基板とジョイスティックなどを制御するためのマイコン基板という構成だ。
一般的なドローンと基本構造は同じ。カメラ処理用のプロセッサ基板、衝突回避用のセンサー、GNSS(GPS)、モーターを制御するためのマイコン基板である。ドローンの性能は衝突回避もでき、ジンバルで向きを変えることもできる高機能なものとなっている。
各々はワイヤレス通信Wi-Fiで接続されており、コントール、映像が同期されている。FPVを用いればゴーグルを介して今までけっして見ることが出来なかった映像を手軽に見ることができるようになるだろう。
ドローンはセンサー、モーターの塊である。センサーやモーターは制御するマイコンやプロセッサがないと機能を発揮することができない。そのため半導体の塊でもある。今後、自動運転の車や介護ロボットなどが生まれてくるがドローンで培われる技術は機器間で共通化されていくものと思われる。
ー了ー
清水洋治(テカナリエ)
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで半導体開発やマーケット活動に従事。
さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持つ。
2016年から、半導体や基板および、それらを搭載するエレクトロニクス機器や工業製品、車載機器などの調査や解析、未来予測など手掛けるテカナリエの代表取締役CEO。シリコンを見て判断し、ブラックボックスで考えない文化を定着させるために活動する。
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