工業用 2023年01月20日

iPhone14 Pro分解レポート

20229月、Appleから新型スマートフォン iPhone14シリーズが発売された。iPhone14シリーズは1414Pro2つのモデルが同時発売されている。また各々のモデルにはディスプレイサイズが6.1インチのものと、6.7インチのMaxが用意されている。

1は、ディスプレイサイズ6.1インチのiPhone14 Proの梱包箱、および、梱包箱を開封しディスプレイを取り外した様子である。

内部は一切隙間のない構造になっており、図1右の数字の8つの部品の組合せで構成されている。
①はディスプレイの裏面、②は通信やコンピュータ処理を行うシステム基板、③はL字型のリチウムイオン電池、④は3眼カメラの裏面、⑤は顔認証機能を持つフェイスカメラ、⑦はバイブレーションを発生させるTAPTIC、⑥と⑧はスピーカー。

各々の形状や接続される配線経路まで最適化されており、手の平に乗るスマートフォンであっても、ノートブック型のPC以上の機能を持つものとなっている。ノートブック型PCはスマートフォンよりも数倍内部の体積が大きい上、最新のスマートフォンのような多眼多機能カメラがないので内部はスマートフォンに比べて十分な隙間のあるものとなっている。iPhoneに限らず、多くのスマートフォンは内部にはまったく隙間のない、高密度設計が成されている。

2は、iPhone14 Proの分解の様子である。

iPhone14 ProではAppleが独自に開発したA16 BIONICという高度なプロセッサが搭載されている。iPhone14 Proを分解しないと見ることはできないが、システム基板の上にA16 BIONICという文字が存在する。しかし文字の場所にA16 BIONICがあるわけではなく、システム基板全体を覆う金属シールドに文字は印刷されている。

金属シールドには電磁波の影響を軽減させる効果と放熱性を高める効果と基板を補強するという3つの大きな役割がある。iPhoneに限らず多くのスマートフォンや最新の電子機器では、随所に金属シールド処理が施されている。
A16の文字のある金属シールドを取り外すとシステム基板が現れる。システム基板上も機能ごとに分離された金属シールドが設置されたものとなっている。2重のシールド処理を行っているわけだ。

2右は、3眼カメラを取り外した様子である。全分解工程は掲載しないが、各々の部品は複数のネジや両面テープでベースのフレームに固定されており、全部品を比較的簡単に取り外すことができるようになっている。

3の左は、iPhone14 Proに搭載される全カメラ(LiDAR含む)の様子である。

センサーは全部で6種搭載されている。LiDAR技術を用いた距離測定用の3D LiDAR、顔認証に用いるドットプロジェクション用のLiDAR2基と映像を取り込むためのCMOSセンサーが4基となっている。各々のセンサーには異なる構造のレンズが組み合わされ、ワイドカメラ、超広角カメラ、望遠カメラとなっている。3眼カメラから取り込まれる異なる画像をA16 BIONICでコンピュータ処理する構造になっている。カメラのデータは全てシステム基板に送られている。図3右は、メインカメラになるiPhone14 Proのワイドカメラを取り出した様子である。カメラ部のサイズはおおよそ100円玉サイズ。スマートフォンとしては最大級のサイズである。内部にはSONY製の48M画素のセンサーが真ん中に配置され、センサーを取り囲むように4方向にコイルが設置されている。またレンズ側にはマグネットがコイル位置に対応して設置されている。マグネットとコイルでOISOptical Image Stabilize)、オートフォーカスを実現している。カメラ撮影時に内部でカメラが前後に動いて焦点を合わせているわけだ。

4は、iPhone14 Proのシステム基板を取り外した様子である。

システム基板にはカメラ、スピーカー、電池、ディスプレイ、TAPTICなど全ての部品がつながっており、集中制御の構造になっている。

基板は3眼カメラとほぼ同等の体積で、システム基板には通信機能とコンピュータ処理の大きく2つの機能が備わっている。

システム基板は2層基板に分かれており、2階建て構造になっている。通信基板にはSIMカード挿入スロット、LTE5G通信のためのモデムや通信用のトランシーバ、電波の送受信を行う半導体チップがビッシリと並んでいる。

もう一方の基板にはコンピュータ機能がビッシリと並んでいる。A16 BIONICプロセッサ、プロセッサの電源を管理する電源IC、メモリーなどである。半導体には電圧を上げると性能が上がるという特性がある。逆に電圧を下げれば性能は上がらない。性能を追求するために無暗に電圧を上げると、電池の消費が増えてしまい駆動時間が短くなってしまうという欠点がある。そのためアプリケーションや処理内容に応じてプロセッサの電源電圧を上げたり下げたりすることで、少しでも駆動時間を伸ばす工夫が成されている。

5は、iPhone14 Pro2つの基板のメインチップの様子である。

細かいものまでカウントすると50個を超える半導体が2層基板に設置されているが、メインチップは図5以外にもWi-Fi/Bluetoothチップやストレージメモリーなどがある。

コンピュータ基板側にはA16 BIONICがもっとも大きい面積で設置されている。カメラやモーションセンサーなどの多くのデータや通信から入力したデータがA16 BIONICに入力される。A16 BIONICで処理されたデータがディスプレイに表示され、ストレージメモリーに記憶される構造になっている。

A16 BIONICは高度な演算を行うので非常に多くのエネルギーを消費する。そのため電池消費量も大きい。少しでも電池の持ちを伸ばすためにペアとなる電源ICA16 BIONICの右隣りに配置されている。Apple製の電源ICである。プロセッサと電源ICはセット化されていて、電源の最適化を常時行っているわけだ。2つがセットとなることで性能と電力が両立されている。

通信基板側にはQUALCOMM5Gモデムチップセットがメインで配置されている。通信用のモデム、トランシーバ、電源ICなどがQUALCOMM製となっている。Apple製チップとQUALCOMM製の組合せを骨格にiPhone14 Proは出来ている。

2007年に初代iPhone2Gが米国で発売開始された。当時Appleは自前のプロセッサを持ったいなかったのでSAMSUNG製のプロセッサを活用した。2010年のiPhone4Apple独自のプロセッサA4を開発し活用した。2010年以降Appleは毎年スマートフォン向けのAシリーズ新プロセッサを開発し、iPhoneに使い続けている。また2020年以降はMacbookシリーズなどにも独自プロセッサMシリーズを開発し活用している。

1は、Apple iPhone過去8モデルの内部のプロセッサと通信チップの変遷をまとめたものである。

2010年にスタートしたApple独自プロセッサAシリーズは2015年にはA9、その後毎年カウントアップを続け、2022年のiPhone14 ProではA16まで進化を続けている。

2015年には14nmプロセスで製造されていたが、ほぼ2年サイクルで微細化技術が活用され、A16 BIONICでは4nmという2022年時点では最先端の微細化技術が採用されている。微細化が1世代進むとおおよそ1.5倍ほど多くの回路を搭載することができるので、機能向上が可能になる。また微細化によってトランジスタ間の距離が小さくなるので処理速度が上がり、電力も小さくなるという利点がある。
Appleは常に率先して微細化技術を取り込み、性能と電力を毎年改善しているわけだ。

通信用モデムはインテルモバイル(2019年に部門ごとAppleが買収)を使った時期もあるが、過去8モデル中6モデルではQUALCOMMを活用している。

6は、Apple iPhone14 Proに採用されるA16 BIONICのパッケージを開封した様子である。

ネームの側にはメモリーが搭載されている。メモリーは高速のLPDDR52か所、2枚重ねの計6GB
メモリーの反対面にはプロセッサが配置されている。プロセッサの上には電源を安定化させるためのシリコンキャパシタが8か所乗っている。
A16 BIONICパッケージ内にはプロセッサ、メモリーやシリコンキャパシタなどが最短距離で配置されており、プロセッサシリコン内にはCPUGPUなどの機能がビッシリと詰め込まれている。

iPhone14 Proは内部も隙間なく機能が配置されているが、A16 BIONICもパッケージ内に隙間なくメモリー、プロセッサ、特性を改善するための容量などがビッシリと埋め込まれているわけだ。

ー了ー


 

清水洋治(テカナリエ)
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで半導体開発やマーケット活動に従事。
さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持つ。
2016年から、半導体や基板および、それらを搭載するエレクトロニクス機器や工業製品、車載機器などの調査や解析、未来予測など手掛けるテカナリエの代表取締役CEO。シリコンを見て判断し、ブラックボックスで考えない文化を定着させるために活動する。

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