工業用 2022年09月12日

宇宙産業のエキスパートに宇宙におけるモノづくりのポイントを聞く 「想像力」と「高度な妥協」と「共通化」

かつての宇宙開発は、国家レベルでプロジェクトが動き、民間人が宇宙に行くのは夢の世界の話でした。現在では、一般企業が宇宙ロケットを開発して飛ばし、民間人でも宇宙飛行が出来るようになっています。もちろん、かなりの費用がかかり、誰でも簡単にとはいきませんが、ほぼ不可能の状態から、可能と言えるところまで身近なものになりつつあります。

▽株式会社たすく代表取締役の古友さん(左側)と宇宙領域フェローの大熊さん(右側)

このような状況を捉え、宇宙領域で何かをやりたい、チャレンジしたいと考える企業は増えてきました。未知の領域は可能性の宝庫であり、モノづくりを行う人ならば、一度は踏み込んでみたいと思うものです。とはいえ、宇宙まではそれなりに距離があり、地上の環境とはあまりにも違います。宇宙に合わせたモノづくりが必要であり、参入ハードルはそれなりに高くなります。

今回は、宇宙機器と宇宙技術を応用したシステムを開発するエンジアリング会社「株式会社たすく」の古友さんと大熊さんに、宇宙におけるモノづくりについて、セメダイン株式会社工業営業部の岡部を交え、話を聞いてきました。

宇宙開発の両輪をブリッジするエンジニアリング会社

古友「宇宙に進んでいきたいと思う人は最近多いと思います。しかし、参入ハードルが高いので、直ぐに入ってはいけない。そこを手助けする会社の意味で「たすく」と名付けました。

エンジニアリングをやると言った時、製造の部分が出来ていないことがあります。逆に、製造が出来るという人は、上流の設計概念がインプットされていないことがある。地球の外で動くものは、この両輪を回してあげないといけません。この両方をブリッジし、統合的なシステムを供給する、宇宙開発のエンジニアリングサービスプロバイダーがたすくです。」

▽対談する岡部(左側)とたすくのお二人

古友さんは、宇宙とは関係のない自動車関連の会社で、高性能車両の運動性能に関わる仕事をしていました。2008年のリーマン・ショックの影響で自動車業界からエンジニアリング会社に転職します。そこで宇宙ステーションや宇宙用機器の開発を行うようになったのが、宇宙との関係の始まりでした。2012年から月面探査ローバー開発の会社に係わり、2015年にその会社に転職します。そして、2020年に株式会社たすくを立ち上げました。

大熊さんは、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の実験のための管制官の仕事に、2008年から携わっていました。その後、きぼうに搭載する実験装置の開発にも関わり、そこで古友さんと知り合います。たすくに入ったのは2022年からになります。

立場や経緯は異なりますが、二人とも最前線で開発にかかわってきた宇宙産業のエキスパートです。

想像力を働かせ、作った装置になりきり、一回やってみる

▽装置の解説をする古友さん

最初に宇宙におけるモノづくりに必要な視点について、古友さん、大熊さんにお聞きしました。

大熊「まず、一つ大きな点は、宇宙では故障すると修理が難しい点です。目の前で物を見ることができないので、どこが故障しているのか、状況を正確に把握する必要があります。データを地上に全部リアルタイムで落としていきながら、不具合の分析を行う。故障の状況を捉えたうえで、遠隔で対処しないといけません。

システムなら、一度再起動するとか、一部を遮断するなどの方法がとれます。物理的に物を動かすことはできないので、機械的なところはどうにもなりません。そのような不具合を起こさないようにする方向で、設計側に落とし込んでいきます。

宇宙のモノづくりは、極限まで信頼性の高さを突き詰める。故障しないためにどうするか。故障のリスクを全て洗い出し、できるだけ低減して設計に落とし込みます。今までの宇宙開発のプロジェクトは国主導でやっていたので、このようなノウハウは国の機関で持っています。民間がやるとなったとき、そのノウハウを知っている人が教えてあげればいいのですが、その仕組みが現状ないので私たちが懸け橋になります。」

▽宇宙におけるモノづくりについて語る大熊さんと古友さん

最適解を追求する「高度な妥協」

▽成層圏からの撮影用装置。手前中央がカメラ部分。

古友「一回やってみると、自分の納得感が変わります。民間での宇宙開発は、お金も、時間も、人も限られています。最高の答えを追い求められるものではありません。そのような状況では、理想解ではなく、最適解に落とし込んでいく。本当はここまであるべきだが、ここまでにしておく。それを言わなければいけないが、自分自身が納得していないと伝えることができません。手触り感をもって、自分の中で消化するのが、宇宙における開発で非常に重要になります。」

古友さん、大熊さんは、このような最適解の追求を「高度な妥協」と言います。

▽成層圏から撮影した地上の映像。 spaceballoon社( https://www.spaceballoon.co.jp/ )提供

大熊「妥協するのは、妥協しないパターンが分かっての妥協です。それが最適解を出すことだと思っています。宇宙で使われる装置は、安全性と信頼性を満たすことが必要です。安全性は決められているので、完全に通さないといけません。次に信頼性の部分をどこまでやるかです。そこは妥協していかないといけない。しかし、変なところを妥協すると、プロジェクト的にうまくいかなくなる。どこを妥協するかが重要です。」

古友「シミュレーションはもちろんします。構造解析、熱解析もやる。しかし、最後はやはり試験をしないと信用できません。理想的には、試作品を作って1回打ち上げる。それを開発に戻して、もう1回本番で打ち上げるのがいい。しかし、打ち上げコスト的にそれは出来ません。

要素の全てを時間軸でフェーズ分けして。それぞれを個別に試験をしていく。それが全部通ることで、打ち上げた結果をフィードバックしたのと同様に、環境に対して耐性があると言います。」

宇宙における接着剤の役割

▽接着剤からのアウトガスを検査するテストピース

次に、宇宙産業での接着剤の役割をお聞きしました。

古友「宇宙では接着剤は多く使われています。例えば、人工衛星や宇宙ステーションに使われる大きなソーラーパネルは全部接着剤で止まっています。宇宙ステーションなら地球から400km。月なら38kmもある。そこまで行くロケットは非常に乗り心地が悪い。装置は激しく揺らされます。装置を全て硬く固定してしまうと、どこかにシワ寄せがいくので、柔らかい部分を設けて力を逃がさないといけません。免振材の効果を持ちながら固定するのに接着剤が活用されます。

他にも、冷たくなるように作ってヒーターで温める熱制御が宇宙では標準的な方法であって、そのヒーターのほとんどが接着剤で止まっています。ヒーターをネジで固定すると、そこが熱の通り道になって、全部熱が逃げてしまいます。熱制御の視点からすると、固定方法は接着剤が最適です。」

▽アウトガスの試験装置

古友「接着剤を宇宙空間で使用する課題の1つにアウトガスがあります。空気が無くなるので、有機物の接着剤からガスがどんどん出てくる。前職で月面探査ローバーを作る際にも、セメダイン社の既存流通品を購入してテストピースを作り、試験装置に入れて、どのようなガスがどれぐらい出ているか検査しました。その結果から対策ができないか相談もしています。」

岡部「このガスが出るのはこの成分の影響だろうと予測できます。接着強度の為のものなら取り除けないが、使いやすくするためのものなら抜くことができる。トライアンドエラーを繰り返し、古友さんからのアイディアで使い方を調整することもありました。

接着剤は、宇宙産業において、現状明確な競合はいないし、ベンチマークがあるわけでもない。そこは想像力となります。古友さんの言う「高度な妥協」は接着剤業界でも同じなので、理想と今できる最適化のバランスは、結構考えました。最終的に、互いのできることから腹割って話すことは結構大事だと思いましたね。」

基本部分の共通化を目指す

▽成層圏から撮影した地上の映像。 spaceballoon社( https://www.spaceballoon.co.jp/ )提供

最後に、たすくの今後の展望についてもお聞きしました。

古友「たすくが対応する領域は、宇宙開発の技術を活用した地上用の二足歩行ロボットの開発から、月面用の装置まで非常に幅広いです。特徴的なところでは、成層圏はまだブルーオーシャンの領域であり、重点的に開発を考えています。バルーンを使って成層圏まで上昇させて撮影する装置の試作機を作って、成層圏関連のサービスを提供するspaceballoon社( https://www.spaceballoon.co.jp/ )と共にテストを行っています。

 人工衛星の高度(400kmから600km)の10分の1程度の高度なので、10分の1の性能でも同じぐらいの解像度が出る。同じカメラを上げるなら10倍の高解像度で撮影できます。安価にすることも、既存技術の応用で高性能にすることもできます。」

▽月面ローバー開発のロードマップ(たすく提供)

古友「あと、ローバーを作りたい。宇宙でもモビリティが絶対必要になります。小さなローバーから始めます。大きなものはお金がかかり過ぎる。

宇宙で何かしたいと考えるプレーヤーは多いのですが、宇宙や月の環境がどうなっているかを知っている者は少ないです。ベースラインとなる周辺機器を、しっかり作っていくことが、次世代の宇宙を拡張させるためのブースターになると思っています。商業的成功に導くのはここがポイントです。」

大熊「自分たちがやることは、今後の有人向けを想定したとき、しっかりステップを踏んでいく点です。宇宙ステーションでは、各実験に特化したラックだけでなく、インフラだけ供給されて中身は自分たちで作れる多目的実験ラックも用意します。そういう基本的な部分の共通化は、今後重要なことだと考えています。

ローバーを作るにしても、下のモビリティの部分はできるだけ共通化します。それを大きくしつつ、上に乗せるものを変えると、色々な使い方ができるようなローバーが作れます。共通部分のところを、小さいところから始める。それが今やろうとしていることです。」

▽開発中のローバーのホイール

岡部「共通のアーキテクチャがあって、その上に載せるものを変える点は、非常に興味深い話です。宇宙産業の一つの形になるのではないでしょうか。古友さん、大熊さんのやっていることは、刺激的で、何か似た気持ちもあります。

 車が開発され、飛行機、ロケットと世界が拡張されていきました。宇宙産業がいずれ今の自動車の市場規模になるかもしれません。そのために、私達も何か足跡を残していかないと、宇宙産業は成長していかないと思っています。」

取材協力ありがとうございました。

ー了ー


ライター:馬場吉成
工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていました。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/

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