工業用 2023年06月30日

くっつきにくく、良く滑るだけじゃない! 実は身近な存在の「ふっ素樹脂」とはどんな素材なのか

 半導体、東京ドーム、お菓子の袋。この3つに共通するものは何か分かりますか?全く関係の無いような3つですが、あるものが無いとこれらを作ることができません。それは、ふっ素樹脂です。
 スマートフォンやPCなどの電子機器だけでなく、家電製品や自動車など、身の回りに有るあらゆるものに半導体は使用されています。半導体の製造にふっ素樹脂は欠かすことのできないものです。東京ドームの屋根にはふっ素樹脂を使った布が用いられています。ポテトチップなどのお菓子の袋の口は、ふっ素樹脂が無ければ綺麗に閉じることができません。

ふっ素樹脂を用いたテープ製品 画像提供:中興化成工業株式会社

 あまり聞きなれない素材ですが、ふっ素樹脂は非常に身近なものです。一般的なプラスチックよりも、様々な優れた特長を持っています。しかし、その優れた特長の影響で、接着剤にとっては扱いの難しい素材でもあります。ふっ素樹脂とはどのような素材なのか、接着剤とはどのような関係性があるのかなど、メーカーに行って色々聞いてきました。

熱、薬品、紫外線に強いふっ素樹脂

左が塚形さん。右が村上さん。よろしくお願いします。

訪問したのは中興化成工業株式会社。ふっ素樹脂をメインに、シリコーン樹脂や生分解性プラスチックなどの高機能樹脂を取り扱う、1963年創業の樹脂加工メーカーです。オリジナルの技術を多数持ち、取り扱いが特に難しい高機能樹脂の加工、製造を得意としています。
話を聞いたのは、開発本部マーケティング部の塚形さんと、村上さん。ふっ素樹脂とはどのようなものか、特長や用途を説明していただきました。

ふっ素樹脂の粒、粉、水に混ぜたもの。ここから各種製品になる。

ふっ素樹脂は、ふっ素原子を含んだプラスチック素材の一種です。ふっ素樹脂の呼び名は聞いたことの無い人も、「テフロン」は聞いたことがあるかもしれません。焦げ付かないフライパンなどに使われているアレです。

テフロンはアメリカのデュポン社のプランケット博士によって1938年に発見されたふっ素樹脂です(現在はアメリカのケマーズ社の登録商標)。ふっ素樹脂は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、PTFEはテフロンの一種)やPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)など、9品種あります。

https://www.chukoh.co.jp/teflon/

ふっ素樹脂でコーティングされたフライパンを使ったことがある方なら、くっつきにくく、良く滑る(非粘着性、滑り性)特長があることはご存知かと思います。他にもふっ素樹脂は優れた特長を持っています。耐熱耐寒性、耐薬品性、耐候性、絶縁性です。

樹脂の中でも多くの特長を持っているそうです

村上「ふっ素樹脂は、耐熱耐寒性が高いです。一般的なプラスチックは100度前後で溶けてしまいますが、PTFEの融点は327度です。連続使用温度は260℃になります。マイナスの温度環境下でも使用できるので、他のプラスチックと比べて、非常に幅広い温度で使えるのが特長です。耐薬品性は、樹脂素材でトップクラスといえます。ガソリンなどの有機溶剤や硫酸などにも強い耐性があります。耐候性については、一般のプラスチックは、屋外に長期間置いておくと紫外線でボロボロになります。ふっ素樹脂は、紫外線や湿気による影響をほとんど受けないので、劣化せずに強度を保ち続けることができます。電気絶縁性についても、プラスチックの中で最高レベルの電気絶縁性を持っています。」

ふっ素樹脂の原料となる蛍石

また、ふっ素樹脂は、一般的なプラスチックと原料の面でも異なります。多くのプラスチック素材は石油を原料としていますが、ふっ素樹脂は鉱石が原料です。蛍石から作られます。蛍石は、ふっ素を多く含む鉱石です(主成分はフッ化カルシウム)。様々なふっ素化合物の原料になります。

くっつきにくく、滑りやすい。熱や薬品、紫外線に強く、電気を通さない。そして、石油由来ではない。ふっ素樹脂は、特長も原料も一般的なプラスチックとは異なる、高機能樹脂なのです。

半導体製造、東京ドーム、5G通信にも使われている

非常に優れた特長を持つふっ素樹脂は、半導体、医療、食品、自動車、化学、航空宇宙など、多くの分野で使用されています。

村上「ガラス繊維にふっ素樹脂を何度もコーティングすることによって丈夫な布が出来ます。当社オリジナルの技術により製造したこの布は、水や汚れをはじき、屋外に長期間置いてあっても劣化しません。東京ドームやタイのバンコクにあるスワンナプーム国際空港などの屋根に使われています。東京ドームの屋根は、建設されてから35年間一度も破れることなく使われてきました。」

スワンナプーム国際空港の屋根 画像提供:中興化成工業株式会社

村上
「半導体製造では、薬品による洗浄工程が多く行われます。金属を腐食させてしまうような強い薬品も使われます。耐薬品性の高いふっ素樹脂は、それらの薬品の影響を受けません。半導体製造装置や薬液を通すチューブなどには多くのふっ素樹脂が使用されています。
5G通信や、車の衝突防止レーダー用の基板にもふっ素樹脂が活用されます。ふっ素樹脂は様々な樹脂のなかで、最も誘電率および誘電正接が小さい素材です。そのため伝送損失が小さく、高速通信に要求される性能が満足に備わっています。加えて、耐熱性も高く、湿気による特性変化も小さいことから、今後Beyond 5Gで求められる高速通信を実現するためにも、ますます、ふっ素樹脂基板が必要になります。」

半導体ウェーハのケース。薄い円盤状のウェーハを溝に立てて入れます。

これ以外にも、ふっ素樹脂はチューブ状や薄いシート状、テープ状、特殊形状に加工されて、色々な場所で利用されています。

例えば、お菓子の袋の口を閉じる機械では、ヒーターの入った板で袋の口を挟んで溶かすことで接着しています。加熱部がそのままだと溶けた袋が貼りついてしまうので綺麗に接着できません。テープ状のふっ素樹脂を加熱部に貼ることで、溶けた袋が加熱部に貼りつくことなく綺麗に処理ができます。

キッチンから宇宙空間まで、ふっ素樹脂は多くの場所で活躍しているのです。

ふっ素樹脂の成型品

高性能過ぎて、加工や他の素材と組み合わせるのが難しい

 多くの優れた特長を持つふっ素樹脂ですが、高性能なために出てくる大きな課題があります。その一つが、加工が非常に難しい点です。

塚形
「一般的なプラスチックは、溶かして型に入れることで希望の形に成型にします。100度から200度で溶けて柔らかくなるので、比較的簡単に成型できます。しかし、ふっ素樹脂は、耐熱性が高いので溶かすには340℃以上の高熱が必要です。また、ふっ素樹脂の一種であるPTFEは溶けたとしても柔らかくならず、形に入れることが出来ません。例えば、PTFEでコップを作った場合、そのコップを340℃に熱してもそのままの形状を維持します。なので、パウダーを押し固めて塊を作って、高温で焼結させてから削ったり、薄く剥いたりもします。」

ふっ素樹脂は、溶かして成型することが非常に難しい素材です。成型には特殊な技術が必要です。そのため、金属のように塊を削って形をつくることもあります。薄いシート状のふっ素樹脂ならば、円筒状のふっ素樹脂の塊を作って回転させ、大根のかつら剥きのように刃物を当てて作ります。

希望の形を作ることはできるものの、簡単には作れないのです。

フィルム状のふっ素樹脂製品 画像提供:中興化成工業株式会社

ふっ素樹脂でもう一つの問題となるのが、滑りがよく、くっつかないため、他の素材と合わせて使用するのが難しい点です。特殊な技術を用いなければ、他の素材と接合したり、貼り付けたりすることができません。

接着剤に対しても同じです。接着剤がふっ素樹脂の表面に馴染まないので、固まっても弾かれて剥がれてしまいます。

ふっ素樹脂の粘着テープ

しかし、特殊な処理や技術を用いることで、ふっ素樹脂でも他の素材と組み合わせることが可能です。例えば、ふっ素樹脂の粘着テープでは、エッチング処理と言われる方法で片面を荒らして粘着剤を塗布しています。表面を荒らすことで、滑りやすく、くっつかない性質が失われるので、粘着剤がふっ素樹脂の表面に留まることができるのです。粘着テープを貼りつければ、貼り付けた材料に非粘着性、滑り性、耐薬品性、絶縁性などの機能を付与できます。

表面を荒らしたふっ素樹脂フィルム 画像提供:中興化成工業株式会社

東京ドームの天井に使われている布も、ガラス繊維とふっ素樹脂を独自技術により組み合わせたものです。二つが組み合うことで、ガラス繊維の持つ強度とふっ素樹脂の特性が発揮され、水や汚れを弾き、長期間劣化しない丈夫な布になります。

他の素材と組み合わせるのが難しい素材ですが、組み合わせることでより高い機能を持つことができるのもふっ素樹脂の特長といえます。

まだまだ広がるふっ素樹脂製品の可能性

最後にふっ素樹脂の今後について聞いてみました。

村上
「樹脂そのものは変わらないので、それをどのように加工していくか。今後は加工力によって製品に付加価値をつけていくことがより必要になると思います。
例えば、最近出した製品でミクロンレベルの小さな穴のあいた多孔質素材があります。空気を通すけど、水分は弾いて通さない。パウダー状のふっ素樹脂を固めたものを、微妙な技術で伸ばしてミクロンの穴を開けています。
他には、異素材との組み合わせもあります。ポリイミド樹脂とふっ素樹脂を一緒にしたフィルム材などは既に製造しています。そのような、異素材と合わせることによって、違った性能を付加していくことも、将来性の一つとして必要とされる部分だと感じています。」

ふっ素樹脂は、これからも進化していきます。

塚形
「歩留まりや生産性を上げていく点は一つあります。原料を無駄にしない。そして、加工の幅を広げること。今は素材を提供して終わりという形です。それこそ接着剤で何かくっつける話であれば、私達の方でも何かをくっつけて、違う形に加工するところまでやりたい。そういうところを伸ばしてやっていくことが、大事だと思っています。」

ふっ素樹脂は接着の難しい素材の一つです。しかし、何も処理することなく、接着剤で貼り付けられるようになれば、ふっ素樹脂の持つ高い機能を、別の素材に簡単に付与することができます。ふっ素樹脂と同じように接着剤も日々進化しています。近い将来、ふっ素樹脂をしっかり接着できる接着剤ができるかもしれません。その日を待ちます。


ライター:馬場吉成
工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていました。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/

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