工業用 2023年10月30日

モノづくりを変えた3Dプリンターは、モノの流れも変えていく~3Dプリンターの現在と未来~

 実用レベルで使用できる3Dプリンターが世界で初めて発売されたのは、1980 年代後半になります。それから30 年以上経ち、今では3Dプリンターは様々な産業で活用されるようになりました。個人で所有して活用している人も珍しくありません。

3D プリンターで造形された製品の数々

 一口に3Dプリンターといっても、造形方法や使用できる材料は各種あります。作ることができる物も様々です。一時期は何でも作ることができる万能製造装置のようにも言われることもありました。しかし、現状の3Dプリンターの性能では、既存の加工装置に太刀打ちできない加工もあります。一方で、3Dプリンターの登場により、既存の製造装置では作れないような形状も簡単に作ることができるようになりました。しかも、1個から、短期間で作れます。

 3Dプリンターはモノづくりの方法に大きな変革をもたらしました。その影響は、製造現場にとどまらず、サプライチェーンにまで波及しています。3Dプリンターの最新の活用事例や未来像などをメーカーで聞いてきました。

3Dプリンターの老舗トップメーカーに話を聞く

竹内さん。よろしくお願いします。

 今回訪問したのは、産業用3Dプリンターのトップメーカーであるストラタシス社の日本法人、株式会社ストラタシス・ジャパンです。話を聞いたのは、セールスアプリケーションエンジニアマネージャーの竹内さん。
 ストラタシス社の3Dプリンターの特長や活用事例を紹介していただくと共に、3Dプリント技術が今後どのような世界を作っていくかをお聞きしました。

ショールームで実機も見せていただきました。

 ストラタシス社創業者のスコット・クランプ氏は、現在も多くの3Dプリンターで使われるFDM 方式(熱溶解積層方式)を1988 年に発明し、1989 年にアメリカで創業(日本法人設立は2012 年)しました。3Dプリンターには様々な造形方式がありますが、現在ストラタシス社では樹脂を扱う3D プリンターの5 つの方式の装置を開発、製造しています。PolyJetPolyJet(マテリアルジェット)、FDM方式、SLA方式、DLP方式、PBF方式(粉末床溶融結合)の5 つです。

最大1m長の部品の造形ができるFDM方式の3Dプリンター

 それぞれの方式には扱える素材や造形速度、造形サイズなどの特長があり、用途により使い分けられます。
 例えばPolyJet の3D プリンターは、複数の樹脂を同時に噴射することにより、様々な特長を持ったフルカラーの造形が可能です。特殊な質感のフルカラーの高精度樹脂製品を1個から作れます。

PolyJetにより造形されたハンバーガー。クッションのように柔らかい。

 FDM方式は、材料となるフィラメントを溶かし、形状に合わせて積み上げていく方法です。ABSやポリカーボネートなどの、実際に工業製品で扱われる樹脂材料が使用できます。スーパーエンプラと言われる、耐熱性や耐久性などの機械特性が非常に高い素材にも対応可能です。1mを超えるような大型の部品の造形もできます。

FDM方式より造形された部品。

 SLA方式とDLP方式は光を用いた造形方式です。SLA方式はレーザー光を使い、DLP方式はプロジェクターからの光を使って光硬化性樹脂を固めます。機械特性の高い樹脂材料を使用して、滑らかな表面の高精度な部品を造形することが可能です。SLA方式ならば800mm角程度までの大型の部品が造形できます。DLP方式は非常に高速な造形が出来るので、少ロット生産にも対応できます。

光造形による部品。

 PBF方式は、粉末の樹脂を敷き詰め、造形する形状に固めて積み重ねていく方式です。非常に生産効率が高く、月産10000個程度の中量生産にも対応できます。

PBF方式により造形された部品。

 竹内さんによれば、ストラタシス社の3Dプリンターを用いれば、現在3Dプリンターで造形できるほぼ全ての樹脂素材に対応できるそうです。プロトタイプから小ロット、中量生産まで、様々な業界の生産現場で活躍しています。

製造現場に浸透した3Dプリンター

 3Dプリンターが活用される産業は多岐にわたります。初期の頃は、航空宇宙・防衛などの分野における、単品または少量生産品で、特殊な形状、性能が求められるハイエンド製品向けの部品の製造が中心でした。

多くの業界で活躍するストラタシス社の3Dプリンター。(画像提供;ストラタシス・ジャパン) )

 その後は、部品の軽量化や、カスタムパーツ対応などを行うための新たな製造方法として、自動車業界でも使われるようになります。他にも、高い性能や特殊な形状の物が必要であり、月に数十万個もの生産を行わないような産業機器、重工業分野でも活用が進みました。

 1個から中量までの生産や特殊形状や機能性パーツの製造は、既存の加工装置を使った従来の製造方法では非効率、または製造そのものが難しく、3Dプリンターが大いに活用される分野です。

株式会社人機一体の架線メンテナンスロボットのNylon12CFによる部品製作。(画像提供;ストラタシス・ジャパン)

 例えば、ストラタシス社の3Dプリンターが機能性パーツの少量製造に活用された例では、鉄道の架線メンテナンスに用いられる人型の大型ロボットのパーツ製作があります。ロボットを製造するにあたり、金属部品では重量が重く、設計の制約も多かったので軽量化に苦心していました。加工を外注で行っていたので、製造に時間がかかる問題もあります。これに対し、3Dプリンターを用いることで設計の自由度が上がり、強度を保ちながら軽量化ができたのです。

現場で使われる工具に合わせて3Dプリンターで作られたケース

 また、3Dプリンターは、生産技術分野での活用も注目されるようになりました。製品に使われる部品そのものを作るのではなく、部品を加工するための道具や、製造現場で使用するための道具を作る使い方です。


 部品を加工する際には、加工する位置を決めたり、素材を固定しやすくしたりするための治具を用います。治具は加工する物に合わせて作るので、物が変われば新たな治具を作る必要があります。治具は消耗品でもあるので、摩耗による劣化や破損などが起きれば再作製が必要です。作製を他の工場に依頼している場合は、治具が届くまでに時間がかかり、その間は製造が止まってしまいます。

曲げパイプに合わせて3Dプリンターで作られた取り付け台

 3Dプリンターを用いれば、製造現場で治具を作ることが可能になり、数時間後には新たな治具が出来上がります。これにより、生産効率が飛躍的に上がりました。
 製造現場で使われる道具類を整理するための台や、細かい部品が混ざらないように分けるケースなどを3Dプリンターで作る例も出ています。形や色を道具や部品に合わせて自由に変えて簡単に作ることができるので、直ちに生産性の高い現場環境を整備できるようになりました。


 特別な形状の物を、1個から数個だけ作る必要が多く発生する生産技術の分野では、3Dプリンターが活躍できる場面が多くあります。ストラタシス社の3Dプリンターも、そのような現場で多く使われているそうです。

身近なところでも使われるようになった3Dプリンター

 製造現場で部品製造から生産技術にまで使われるようになった3Dプリンターですが、近年は実際に製品を使うお客様に近い場所で使われることも増えてきました。その一つが歯科医療の分野です。

歯の矯正に用いるマウスピースと元型。(画像提供;ストラタシス・ジャパン)
https://www.stratasys.co.jp/materials/materialscatalog/polyjet materials/dental materials/

 歯の矯正に用いるマウスピースの元型の製作には、3Dプリンターが多く用いられています。マウスピースの元型は、装着する人の歯型に合わせて作られます。元型は治療の段階に合わせて形を変えて作るので、1人あたり数十個もの異なる元型が必要です。以前はこれを人の手で1個ずつ製作していました。3D プリンターならばデータを用意すれば1個からでも作れるので、製造にかかる時間やコストを大幅に減らせます。ストラタシス社の3Dプリンターも、歯科医療分野で多く使用されています。

3Dプリンターで製作した肩欠損者用ショルダーライン形成パッド

 各個人に合わせて3Dプリンターで作られる他の例では、写真のような肩パッドもあります。事故や病気など、何らかの理由で肩から先を失ってしまった人は、服を着ることが難しくなります。自分の体に合った肩パッドが必要です。3Dプリンターを用いることで、軽くて柔らかい自分の体に完全フィットした肩パッドを、より低価格で利用者に届けられるようにする取り組みが現在進められています。

3Dプリンターで布への直接印刷が可能になった

 スポーツやファッション分野でも、個人向けで3Dプリンターが活用されるようになっています。スポーツ分野では、シューズなどの道具類を競技者に合わせ、デザインも含めて個別に作れるようになりました。ファッション分野では、ストラタシス社が開発した、布に対して直接印刷ができる3Dプリンターが、新たな表現方法として注目を集めています。フルカラーの立体的な形状を布に作ることで、今までにない表面形状の服を作ることができるようになりました。

父と息子たちとのコラボフィギュア「ミンケシ」(画像提供;ストラタシス・ジャパン)

 他にも、データだけを自分で作り、出力サービスを使ってフルカラーのオリジナル作品を作るようなサービスも多く見られるようになっています。一般の人が3Dプリンターに直接かかわるような場面は、今までは個人で所有してモノづくりを楽しむような、かなりマニアックな世界でした。今ではかなり身近なところまで3Dプリンターが浸透してきています。

3D プリンターが変える未来の世界

最後に竹内さんに3D プリント技術が今後どのよう世界を作っていくかをお聞きしました。


 「グローバルなサプライチェーンが社会情勢の影響により断絶して、部品が届かなくなることが現実的に起きています。解決の手段として、オンデマンドで現地生産もできる3Dプリンターに注目が集まってきました。サプライチェーン全体の流れで見た時に、どう効率化していくかがポイントです。必要な場所で、必要な部品をつくることができる3Dプリンターが、効率化にマッチするのではないでしょうか。
 部品供給の値段は年々上昇しています。研究開発コストも上がっています。会社全体のリソースを見たときに、3Dプリンターを用いて効率化していく考え方は、海外では既に進んでいて、今後さらに広がっていくと思います。」

3Dプリンターにより変わるサプライチェーン(画像提供;ストラタシス・ジャパン)

 3Dプリンターは、新たな加工方法として製造現場に広がってきました。サプライチェーンの形も変えようとしています。身近な場所でも多く使われるようになりました。
 万能製造装置のようにも言われた3Dプリンターは、既存の加工装置に取って代わると思われることもありました。実際はそうではなく、新たな加工方法として、既存の加工装置と共存していきます。発想を変え、上手い活用方法をいかに考え出すかが、今後より重要になってきます。


ライター:馬場吉成
工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていました。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/

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