ものづくり 2023年01月18日

「高専ロボコン2022全国大会」紙飛行機を飛ばす難関テーマにチャレンジ!その1~勝利の女神はどこに舞い降りた?

今年で35回目を迎える高専ロボコン。競技テーマは「ミラクル☆フライ~空へ舞いあがれ!~」だ。自作したロボットで紙飛行機を飛ばすという非常に難しいテーマに、全国から勝ち上がってきた高専生の代表が挑んだ。前編では競技のルールと、3回戦(準々決勝)から決勝までの模様、さらに表彰式までをレポートする。

開会式の模様。ロボットマン!? シップに則り、高専チーム代表として、和歌山高専チームが選手宣誓を行った。

ロボットで紙飛行機を飛ばす! 超難しいテーマのルールとは?

今回の競技は、5ヵ所の円形スポット(φ500mmとφ400mm)と、2ヵ所の縦長滑走路(幅450mm×長さ1500mm)、2種類の筒型ベース(φ400mm×長さ800mm)の中に紙飛行機をランディングさせていく対戦型の戦いだ。競技終了時点で紙飛行機が円形スポットに着陸すれば、1スポットにつき1点が入る。ただし2機以上の紙飛行機が着陸しても、それ以上は加点されない。滑走路は紙飛行機1機の着陸につき1点が加点される。筒型ベースに紙飛行機が入った場合も1機につき3点(距離の近いベースA)、または5点ずつ(距離の遠いベースB)が加点される。

競技フィールドのイメージ。赤チームと青チームのロボットが紙飛行機を飛ばしていく。円形スポットは1点のみ。縦長滑走路と円筒ベースでいかに得点を稼ぐか、あるいはVゴールですべての着陸ターゲットを狙うか。各チームで戦略が分かれていた。

円形スポットの着陸では1機までしか得点にならないが、滑走路や筒型ベースに着陸すれば何機でも得点になるため高得点が狙える。さらに、すべてのスポット、滑走路、ベースに各1機以上の紙飛行機が着陸した瞬間に「Vゴール」となり、その時点で勝利が決まる。これが最も難しいのだが、実際にVゴールを決めた強豪チームも見受けられた。逆に相手が着陸させた紙飛行機を、あとから対戦チームが落とし 、Vゴールを阻止する戦略を練ることも可能だ。後述するがVゴールを阻止する機構を備えたロボットもあった。

出場できるロボットは1台のみだが、自律型でも手動型でもよい。試合時間は2分30秒間で、その制限時間にどれだけ得点を入れられるのか、あるいはVゴールを狙えるのか、それが勝負の分かれ目だ。そのために各チームはロボットの機構や紙飛行機に工夫を凝らしていた。今回のロボットのキモは、紙飛行機を離陸させる出射機構にあったようだ。全国大会に出場したチームが最も採用していた出射機構はローラ回転式だった。2つのローラを高出力モータで高速回転させ、ローラの間から紙飛行機を飛び立たせる仕組みだ。またエアシリンダ式を用いたカタパルト式や、バネによる押出式のほか、遠心力を利用したユニークな出射機構もあった。

これ以外にも、紙飛行機をいかにたくさん飛ばすかという観点から、紙飛行機のストッカーに大量の紙飛行機を収納できるようにしたり、紙飛行機の取り出しにも配慮し、詰まらないようにする紙送り機構にも工夫が見られた。また紙飛行機の形状から研究して、いかに安定して飛ばせるかという点を検討していたチームも多かった。紙飛行機は、着陸地点に向かって直線的に飛んでいくタイプ、回転しながら飛んでいくタイプ、ふんわりと優雅に飛んで着陸するにタイプなどに分かれていた。いずれにしても室内の風の流れや、温度・湿度によって微妙に飛び方が異なってくるようで、そのあたりの調整も難しかったようだ。

以下、全国大会の3回戦(準々決勝)の試合からレポートする。第1回戦と2回戦で惜しくも敗れたユニークなロボットについては、後編のレポートでピックアップする。

射出ローラ作りにセメダインの接着剤を利用していた奈良高専の強豪ロボット!

【第1試合】小山高専「ドラム犬マッハ号」×奈良高専「三笠」

小山高専のロボットは、外装が青いドラム缶というユニークなデザインが目を引いた。面白いデザインは同校の伝統なのだという。ドラム缶が昇降し、下部から可愛いひよこの置物が出てくるギミックも面白かった。紙飛行機は直進性に優れ、滞空時間が長く、ふわっと飛ぶように、安定性と再現性のある折り方にしたそうだ。もちろん手折りなので個体差が出てしまうが、均質になる折り方に工夫を凝らしたこともポイントだ。

可愛い犬のデザインとドラム缶のユニークなデザインが目を引く小山高専「ドラム犬マッハ号」。紙飛行機は安定感のある滑空。ロボットの移動には、全方位移動が可能な「メカナムホイール」を採用している。

また紙飛行機は27機×2列のクリップ付きストッカーに1 機ずつ装填され、コンベアで所定位置に来ると、車輪付きアームにより紙飛行機を押し当て、ベルトでカタパルトへ送り出す仕組み。カタパルトの先にローラ機構があり、ローラの回転で紙飛行機を出射する。どの位置でもターゲットを狙えるように、ローラの回転数を調整して飛距離を制御していた。

ロボット本体の移動には、全方位移動が可能な「メカナムホイール」を採用。ステアリングを用いて旋回する一般的な機構でなく、駆動輪の回転差を用いて旋回する。車輪の回転差を制御することで、回転方向への移動だけでなく、旋回や全方向への平行移動が可能だ。いわゆる「オムニホイール」と異なるのは、本体に対して45°に傾いた樽型ローラーで覆われた車輪を使用し、左と右向きのホイール×2対の計4輪を1セットで使用する点だ。

対する奈良高専のロボットは、第1、第2回戦 ともに20秒台という速さでVゴールを達成してきた強豪「三笠」。同校のロボットの特長は、なんといっても高速連射だろう。3基のメイン出射機構から、次々と紙飛行機を飛ばしていく。試合時間2分半で計820機すべてを飛ばしきる能力がある。こちらも小山高専と同様、紙飛行機の個体差を吸収して飛ばせる工夫をしていた。同校の紙飛行機は弾丸のようにハイスピードで飛んでいくが、一直線に飛行させるガイドライン機構を作り、上下のブレをなくすようにしていた。

連続Vゴールで勝利をつかんできた奈良高専の「三笠」。820機の飛行機を次々と繰り出す高速出射が気持ちよかった。出射機構のローラには、セメダインの接着剤を利用。他の強豪チームのVゴールを阻む妨害射出機構も備え、万全の態勢で臨んだ。

また紙飛行機に力を伝えるローラにもこだわりがあった。常に一定の力になるように、偏心のない2対のローラを3Dプリンターで自作。ローラ周りにはミスミで販売しているウレタンを巻いているが、ここでセメダインの接着剤が採用された。機構担当者によれば、当初は他社の接着剤を使っていたが、最終的にセメダインの「UT100B」が一番良いことが分かったという。セメダインとしても商品がお役に立てて嬉しい限りだ。出射部はサーボモータでダイレクトに高速回転させる。ローラの回転速度は高速だが、フルスピードで回さなくても十分に対応できるとのこと。

前出のように、同校のロボットはVゴール狙いや大量得点の高速連射が大きな特長だが、加えて相手チームのVゴールを阻む妨害用出射機構も2基備えている。相手チームが丸テーブルなどに着陸させた紙飛行機を、この妨害用出射で弾き飛ばせるのだ。また足回りにも高速移動が可能な4輪ステアリング機構を採用。「とにかく絶対に勝ちにいく」という強い意志と、どんな相手にも対抗できる「死角のない現場対応力」が光ったチームだ。

試合結果は、またも奈良高専が33秒でVゴールを決めて準決勝に進んだ。残念ながら敗退した小山高専は「全国大会の強豪を相手に3回まで戦えたことがうれしかった」と感想を述べた。外観も含めて最後まで観客を楽しませてくれたロボットだった。

御覧の通り高速連射で飛行機が飛んでいることがよく分かる奈良高専のロボット。ここまで見事にVゴールを決め、他に追従を許さない強さが際立っていた。

国技館に飛行機の吹雪が! ハイレベルの高速連射によるガチ勝負

【第二試合】石川高専「群機飛翔」×群馬高専「SDGs」

石川高専の「群機飛翔」は、桜吹雪のように紙飛行機が舞飛ぶ大量連射タイプのロボットだ。フィールドに配置された円筒を狙って大量得点を稼ぐ作戦だ。紙飛行機の滑空は、上からパラシュートのようにふわりと着地する軌道なので非常に優雅に見える。出射部は3台あり、各ストッカーに80機×3の紙飛行機を装填でき、バネとおもりで紙飛行機を押さえながら、搬送ローラで出射部に紙飛行機を送りだす仕組みだ。

こちらも出射部に2つの回転ローラを使い、紙飛行機を巻き込んで回転力で出射させる機構だ。紙飛行機はスタンダードなものだが、真っ直ぐに飛ばすために正面方向から見てT字型になるように工夫し、折り返しを35mmに合わせることで個体差をなくしたという。やはり、どのチームも飛行機の差異を吸収することに腐心していたようだ。

石川高専「群機飛翔」。対戦直前の準備の様子。ストッカーに80機×3の紙飛行機を装填できる。真っ直ぐに安定して飛ばすために飛行機の折り方に配慮したそうだ。

群馬高専のSDGsもローラで回転させながら出射する高速連射タイプのロボットだ。4つの出射台から繰り出される紙飛行機は、一試合で1500機にも及ぶ。1台のストッカーには200機ずつ紙飛行機を装填できる。3名の操縦者が各ターゲットに狙いを定め、30秒間(1秒あたり6~7機)で200機をすべて発射する。発射速度、威力、方向もすべて試合中に臨機応変に調整が可能だ。またロボットには展開機構があり、高い位置からターゲットを狙って着陸させるアイデアも良かった。

群馬高専の「SDGs」。一試合で1500機にも及ぶ飛行機を4基の出射台から高速連射。写真のように1台のストッカーには200機の紙飛行機を装填できる。ロボットは高さ方向に展開して上からターゲットを狙える。

試合については、最終的に群馬高専に軍配が上がったが、両者ともに紙飛行機を国技館に、これでもか!という勢いで乱舞させ、会場も大いに盛り上がった。群馬高専は、あと1個だけ円筒に紙飛行機を入れたらVゴール達成というところまでいった。一方、石川高専はVゴール対策はしていなかったものの、流れ弾(飛行機)が偶然あたり、群馬の飛行機をテーブルから押し出す一幕もあった。

手前の青チームが群馬高専のSDGs。高速連射が圧巻だった。一方、奥の赤チームは石川高専の群機飛翔。こちらは紙飛行機らしく優雅に滑空して、見る者を楽しませてくれた。

操縦者が足りないぶんは自動操縦で! AI機能を備えたハイテクロボットが登場

【第三試合】福島高専「紙頼み」×大分高専「國崩し」

福島高専のロボットは、神頼みならぬ「紙頼み」というネーミング。出射台が6基もあり、そこから1分間に約300機の飛行機を連射して大量得点を狙える仕組み。出射機構は他校と同様にローラ機構で、回転速度を制御して飛距離を変える点も同じだ。出射時にサーボモータで紙飛行機を上から押さえる機構を採用し、紙詰まりなくスムーズに飛ばせるようにした。またストッカーに紙飛行機を装填する際の機構も工夫。出射部に紙飛行機を送る際にベルト とラチェット機構を組み合わせ、1機ずつ確実に送り出せるようにしたことがポイントだ。

福島高専の紙頼み。試合前に手を合わせて神頼みも。6基の出射台があるのは本大会で最多だろう。ストッカーに紙飛行機を装填中。

対する大分高専の「國崩し」は、奈良高専と同様、2回戦までVゴール を決めて勝ち進んできた優勝候補の1校だ。独立操作が可能な4基の長ストロークの砲塔が上下にあり、連結された紙飛行機を押し出しながら回転ローラ側に1機ずつ送る仕組みだ。出射機構がシンプルになるように設計した。地区大会後も改良を加え、充填する紙飛行機の数も増やして本戦に臨んだという。

紙飛行機は尾翼を対称に折り返し、回転しながら安定した軌道で飛んでいった。同校のロボットの大きな特長は、3人の操縦者が一基ずつマニュアルで出射を担当するほか、もう一基はAIを利用して自動操縦していることだ。iPhoneを搭載し、そのカメラで飛行機を撮影して、紙飛行機の状態を判定しながら自動調整して精度よく出射するハイテクを隠していた。非常に完成度の高いロボットとして注目を浴びていた。

大分高専の「國崩し」は4基の長いストロークに紙飛行機を装填し、3名の操縦者に加えて自動操縦する助っ人のAIを搭載した出射機構を備えていた。

この試合は、大分高専が1分45秒でVゴールを決めた。ここまで3度もVゴールを決めた強さはやはり本物だった。福島高専は出場校で最も出射台が多く、たくさんの紙飛行機を舞い上がらせた。惜しくも敗れたものの、「去年はロボット自体を完成できなかったが、今年は全国大会まで来れた。マイナスからゼロに戻せたので、次はプラスにしたい」と次の大会への抱負を語った。

大分高専は連射力に優れ、微調整によってVゴールを狙えるのが強味。AIの自動操縦でもかなり得点が入ったという。一方、福島高専は大量に紙飛行機を飛ばし見るものを楽しませてくれた。

途中からVゴール阻止へ! いかに戦うか? という作戦の大切さを目の当たりに

【第四試合】和歌山高専「とば~す君」×徳山高専「双宿双飛」

この試合も見ものだった。和歌山高専は、カタパルト式の出射機構で斜め方向からの筒狙いに徹し、地区大会から100点以上の大量得点をあげてきた強豪チームだ。出射部の回転ローラは3Dプリンタで製作したそうだ。他校が複数台の出射機構を持つのに対し、同校のロボットは1基のみというシンプルさで潔い印象だ。半円状のストッカーは測量機のような風体で、180機の飛行機を装填でき、精度よく確実に点数を稼げるロボットに仕上がっていた。出射台も堅牢な構造で、その角度をボールねじとサーボモータで可変していた。紙飛行機は丁寧にアイロンがけして作成しており、回転しながら飛行する。

和歌山高専「とば~す君」は出射台は1基のみだが、円筒のターゲットに向かって確実に飛行機を飛ばせるように設計しており、大量得点を積み上げていた。

一方の徳山高専は、優れたアイデアが評価されて、ワイルドカードで3回戦に復活してきたユニークなチームだ。同校のロボットも前評判がよく、SNSでは「気持ち良く飛行機が飛んで、いつまでも見ていられる」という感想が出て、5万もの「いいね」がついたといううから凄い。飛行機の出射台は4基あり、2基ずつペアになった独立機構で、2人の操縦者が同時にターゲットを狙える。ストッカーには各150機を充填でき、計600機の飛行機を出射。飛行機のピックアップ機構に、4つの平行リンク機構を採用しており、まさに自転車をこぐようにスイスイと切れ目なく滑らかに飛行機を打ち出していく。

徳山高専の「双宿双飛」。とにかく美しく飛ばすことを念頭に置いたという。回転ローラに小型出力のマブチモータを使っている点が他校と違うところだ。

また、ロボット自体は上方向に展開し、最大高さ2mから飛行機を滑空できる。「とにかく紙飛行機らしい滑空とソフトランディングを目指し、エレガントに飛ばす」というコンセプトだ。人間が紙飛行機を投げるように飛ばしたかったので、あえてトルクやパワーが小さなマブチモータを採用したそうだ。2つのローラで軽く挟んで出射するが、掃除機の発想でバキュームにより飛行機を吸着させ、一機ずつ優しく取り出してから、出射機構に送る工夫も素晴らしかった。地区大会以降、機体をアクリル板に変更し、機構部が見えるようにしたという。それに伴い、飛行機の装填ミスもなくなった。足回りにはメカナムホイールを用い、全方向移動できるようにした。

試合結果は、和歌山高専が70点の高得点をあげて逃げ切きった形だ。しかし両者とも素晴らしい戦いを見せてくれた。徳山高専は、あと1つだけ円筒に紙飛行機入れるとVゴール達成というところまで行ったが、途中から和歌山がVゴール阻止に作戦を切りかえ、徳山の飛行機を打ち落としたり、テーブルから押し出したりして、うまく逃げ切った。まさに実力が拮抗するなかで、和歌山高専の作戦勝ちといえる試合だった。しかし徳山の優雅な飛行機のフライトに対しても、会場から惜しみないは拍手が送られた。

円形スポットに載った徳山高専の飛行機を、和歌山高専のロボットが落とす 瞬間。まさにVゴール阻止の作戦が功を奏したといえる試合だった。

優劣をつけがたい戦いを繰り広げた準決勝、Vゴールを狙うロボットが勝ち進む

準決勝からは、激闘を繰り広げた試合の模様を中心にお伝えする。

【準決勝】第一試合 奈良高専「三笠」×群馬高専「SDGs」

ここまで全試合Vゴールを達成してきた奈良高専と、前日のテストランでVゴールを決めた群馬高専の戦い。結果的に奈良高専が55秒でVゴールを決めて決勝に進んだが、同校のロボットの出射台1基の調整が上手くいっておらず、飛行機の軌道がずれて山なりに飛んだ。しかし試合中にパラメータを変えて臨機応変に対処。一方、群馬高専も善戦し、一番難しい奥の筒にスタートダッシュで入れることができた。一時は奈良高専より先にVゴールを決めそうな勢いだった。どちらも優劣をつけがたい良い試合を繰り広げた。

素晴らしい試合を繰り広げた群馬高専と奈良高専。奈良高専は1基の出射台のパラメータの調整が上手くいかず、少し苦戦した様子。群馬高専は敗れたものの、3600機の紙飛行機を後輩が折ってくれたという。

【準決勝】第二試合 大分高専「國崩し」×和歌山高専「とば~す君」

大分高専も、前試合の奈良高専と同様、準決勝まで全試合Vゴールで安定した強さで勝ち上がってきた。一方、200点近い大量得点を決めてきた和歌山高専。こちらの試合も白熱した展開となった。まず和歌山高専は真ん中の筒狙いで得点を連続でゲット。一方、大分高専は着実に円形スポットと筒に狙いを定めて飛行機を出射。和歌山高専が飛行機のストッカーを入れ替えている間隙を縫って、大分高専が53秒でVゴールとなり、勝利の女神が舞い降りた。和歌山高専は事前にVゴール阻止を狙っていたが、妨害するまであと少しのタイミングでVゴールを決められてしまった。かなり悔しかったようで、チームリーダーも言葉が出なかった。

大分高専は冷静な試合運びでVゴールを決めて決勝に進んだ。一方、残念ながら敗退となった和歌山高専だが、記憶に残る伝説のロボットだったので、来年も勝ち進んで決勝を狙っていただきたい。

決勝戦は全試合Vゴール同士の激突! いかにVゴールを阻止するかもポイントに

【決勝】奈良高専「三笠」×大分高専「國崩し」

いよいよ決勝戦。奈良高専も大分高専も、ここまでVゴールで勝ち進んできた強豪同士。どちらが勝つのか、まったく予想がつかない試合となった。出だしから両者の打ち合い。奈良高専は難しい筒のほうから早々にクリアし、20秒足らずで手前の丸テーブルのスポットに飛行機を置けばVゴール達成というところまできた。最終的に同校は39秒という速さで勝利をつかんだ。大分高専もVゴール狙いで2か所にランディングさせたが、速さの面で奈良にかなわなかったようだ。どちらの勝利だったとしても 決勝戦らしい、本当に見ごたえのある戦いだった。

下馬評どおりに決勝に進んだ奈良高専と大分高専チーム。両者とも全Vゴールを決めてきたが、Vゴールは奈良がすべて1分以内と早く達成しており、その差が勝敗に出た形になった。

高専ロボコンならではのアイデア満載! ユニークな技術とチャレンジ精神も評価対象に

最後に表彰式の模様をお伝えして、高専ロボコン2022前編のまとめとしたい。見事に優勝を手にした奈良高専。チームリーダーは始終クールに対応していたが、優勝が決まった瞬間に、その喜びを爆発させた。これまでの努力が報われ、表彰式ではうれし涙を流した。

すべての試合でVゴールを決めた圧巻の強さは神業ともいえるもの、しかし、その陰には惜しみない日々の努力があったことは間違いないだろう。

一方、準優勝を手にした大分高専も素晴らしい戦いで会場を沸かせた。悔し涙の一幕もあったが、同校のロボットは試合を追うごとにVゴールの時間が短縮されてきたので、かなり の接戦が予想された。残念ながら決勝戦で敗れたものの、ここまで奈良高専と戦ってきた技術力は誰もが認めるところだろう。来年のロボコンで、ぜひ雪辱を果たしてほしい。

AIによる自動操縦機能や、Vゴール阻止機能など、高度な技術が満載されていた大分高専の実力は光っていた。どちらが優勝してもおかしくない試合だった。来年のロボコンに期待したい。

【ロボコン大賞】徳山高専「双宿双飛」
栄えあるロボコン大賞に選ばれたのは、ワイルドカードで3回戦に進んだ徳山高専の「双宿双飛」。地区大会からSNSで大評判になり、数万もの「いいね」がついた大評判の機体は、まさに名実ともにロボコン大賞にふさわしい機体であった。

人が投げるように、スイスイ小気味良く打ち出される紙飛行に誰もが感心した。詳細については後編でも報告する予定だ。

【技術賞】和歌山高専「とば~す君」
円筒ターゲットに紙飛行機を高精度に着地させ、圧倒的な得点力で国技館の観衆を沸かせた和歌山高専。Vゴールを阻止する臨機応変な対応力と、無駄のない動きの技術力も大いに評価された。

【アイデア賞】長野高専「信州ずくだせランド」
遊園地をイメージして見るものを楽しませてくれた長野高専のロボット。飛行機の射出方式も回転木馬のように遠心力を利用するというユニークな発想だった。

見た目だけでなく、見えない部分にもこだわりをみせ、さまざまな工夫を凝らしていた。こちらも詳細については、後編の記事でお伝えする予定だ。

【デザイン賞】有明高専「AppRoaching」 
ライトアップされた夜の飛行場から一機ずつ優雅に飛び立つ紙飛行機が美しかった有明高専の「AppRoaching」。観客を魅了した素晴らしいデザイン性が評価された

ロボットの天板は夜の福岡空港をイメージして設計したという。飛行機を磁石で誘導する仕組みだ。こちらも詳細は後編でお伝えする予定。

また、ユニークでキラリと光ったチームに対して協賛各社から特別賞が贈られた。

【本田技研工業株式会社賞】富山高専本郷キャンパス「SKY×FAMILY」
人とロボットのコラボレーションをテーマに試合に臨んだ富山高専本郷キャンパス。画像認識技術により、オペレータの投入モーションを認識し、それをトリガーにロボットアームが回転して飛行機を飛ばすギミックが面白かった。

人を楽しませるロボットのアイデアが最高。ロボットの顔の表情も変えられる凝った演出と高度な技術が評価された。

【マブチモーター株式会社賞】大阪公大高専「AIRsROCK」
難しい奥の円筒狙いに特化して、飛行機が真っ直ぐに精度よく飛んで高得点を叩き出した大阪公大高専の「AIRsROCK」。本大会で飛行機の出射機構にエアシリンダを採用するチームは少なく、技術面で他校と差別化するポイントになった。

射出機構にエアシリンダを採用した点がユニークだった。一投入魂的な戦略で、得点の高い円筒を集中的に狙いに行く作戦を展開していた。

【株式会社安川電機賞】熊本高専八代キャンパス「fourtress」
なんと154種類の飛行機を製作し、その中から厳選した2機の飛行機を選んだという熊本高専八代キャンパス。その見えない努力には脱帽するしかない。審査員も彼らの努力を大いに評価していた。

ロボットの射出機構は計4基あり、上部にカタパルト式とスライダクランク式を装備。また下部にはカタパルト式×2基を備えていた。

【東京エレクトロン株式会社賞】旭川高専「吹雪」
名前のとおり、まさに「吹雪」のように紙飛行機が大量に舞った姿が印象的だった。上方向にロボットが展開し、「キャッシュガン方式」の出射機構で、次々と紙飛行機を連射する姿は、まさにマシンガンのようだった。

石川高専との闘いでは、両チームとも紙飛行機が乱舞して見るものを圧倒した。試合後のフィールドは、紙飛行機による冬の嵐のような印象だった。

【田中貴金属グループ賞】香川高専詫間キャンパス「prize」
大量の紙飛行機をストックし、美しい軌跡で紙飛行機を飛ばした香川高専詫間キャンパスの「prize」。惜しくも奈良高専に一回戦で敗れたが、その実力は素晴らしいものだった。

3基のローラーによる出射機構と、シリンダによる安定した近距離出射を実現した点が評価された。

【ローム株式会社賞】国際公専「美技成A-Z」
国際公専チームは、わずか3名という少数精鋭で試合に臨んだ。実は高専ロボコンの初出場だったという。しかし素晴らしいロボットに仕上げて、全国大会に上がってきた。

ロボットには昇降機構が具備され、回転ローラで飛行機を出射。一方、下側にバネ式の出射機構×18基が装備されていた点もユニークだった

【セメダイン株式会社賞】大島商船高専「とうきくん」
名前のとおり古代の投石機をイメージした大島商船高専「とうきくん」。ロボット本体を木で製作している点と、飛行機の射出も小さなマブチモータ1台だけで、あとは日本の伝統芸であるカラクリ機構と重力を利用して紙飛行機を飛ばしていた。

木製という他校とは一味違うコンセプトのロボット。外観だけでなく、そのユニークな動力源のアイデアも光っていた。詳細は後編でもお伝えする予定だ。

【株式会社牧野フライス製作所賞】&【アイデア倒れ賞】都城高専「華て!カババッ! 」
メリーゴーランドのような機構や、可愛いカバの口が開いて紙飛行機を飛ばす楽しいアイデアが面白かった。子供たちに応援してもらえるように製作したという。同校のロボットは個性が光り、牧野フライス賞とアイデア倒れ賞をダブル受賞した。

見た目が楽しい都城高専のロボット。飛行機の出射用に、ローラを利用した機構とゴム機構によるカタパルト発射台を搭載していた。

後編に続きます!


井上猛雄
産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。「週刊アスキー」副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにエンタープライズIT、ネットワーク、セキュリティ、ロボティクス、組込み分野などを中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は、「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)など。

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