ものづくり 2023年01月19日

「高専ロボコン2022全国大会」 紙飛行機を飛ばす難関テーマにチャレンジ!その2~ユニークでハイレベルなテクノロジー満載のロボットを大紹介!

前回のレポートでは、高専ロボコン2022全国大会の競技を中心にお伝えした。今回は、ユニークかつハイレベルなテクノロジーを取り入れていたロボットをピックアップして紹介しよう。もちろん競技の勝敗は重要だが、チャレンジ精神のあるハイテクロボットにも魅力が満載だ。それが高専ロボコンの醍醐味ともいえるだろう。

【ロボコン大賞】徳山高専「双宿双飛」

まず栄誉あるロボコン大賞を受賞した徳山高専の「双宿双飛」から見ていきたい。このロボットは「いつまでも見ていられる」と前評判も高く、中国大会のときSNSで5万もの「いいね」がついた。人が投げるように、スイスイと小気味良く打ち出される紙飛行に誰もが魅了された。実際に製作者も「とにかく紙飛行機らしく、美しく滑空させることを念頭に設計した意図が皆さんに伝わって嬉しかった」という。

徳山高専の皆さん。美しい紙飛行機の滑空を見せて、見事にロボコン大賞を受賞した。

同校では機構設計は「Solidworks2016」で行っている。地区大会以降、ロボットの動きに反響があったため、機体をアクリル板に変更し、機構部の様子を見えるようにした。これにより副次的な効果として、飛行機を装填するストッカーが見えるようになり、飛行機を詰めすぎているような状況を把握でき、装填のミスがなくなったそうだ。

機体のカバーをアクリル板に変更し、機構部の様子を見えるようにした。ストッカーの内部も見えるため、飛行機の装填ミスがなくなった。

ロボット本体は、上方向に展開して2mの高さから飛行機を滑空できる構造だ。双宿双飛というロボットの名称は「仲の良い鳥のつがいが飛ぶ」というメッセージを込めて作られており、4基の出射口は上下に2基ずつペアになった機構を採用している。上部の出射口はクランク機構で交互に動き、自転車のようにスイスイと漕ぐように飛行機を飛ばす仕組みだ。ストッカーに積まれた飛行機は、カム機構とラチェット機構を使って1.5mmずつリフトアップされる。

出射時には、消しゴム掃除機のようなエア吸着ファンを動かし、飛行機を1枚ずつ丁寧にピックアップして、2つの回転ローラに送り出す。ローラの配置をV字型にすることで、飛行機の中心を優しく挟みながら飛ばせるため、出射時に飛行機の形が潰れたり崩れることもない。もう1つのポイントはローラを回転させるモータにある。他校では高出力で高回転のモータを採用しているが、徳山高専はあえて回転ローラにトルクやパワーが小さいマブチモータを使っているのだ。これにより、ふわっと滑らかに美しい滑空とソフトランディングを実現。紙飛行機はゆったりと空を舞い、まるで人が投げているかのような安定感で滑空する。

上下ペアの4基の出射口から、それぞれ交互に紙飛行機がふわりと飛んでいく瞬間。この一連の動きに魅了された観衆も多かった。

また下部の出射機構には、仰角を変更できる機能を加えており、狙ったスポットに紙飛行機を着地できるように工夫していた。唯一の弱点は、飛行機がゆっくり飛ぶので、気流の影響を受けてしまうことだ。飛行機が風任せになるため、ターゲットに一直線に高速で飛ぶ他校のロボットよりも、着地点の精度は落ちてしまう。しかし、今大会のテーマである「ミラクル☆フライ 空へ舞いあがれ!~」の趣旨を汲み取ったアイデアと技術力が優れていたという評価を受けて、最終的にロボコン大賞を受賞した。

【優勝】奈良高専「三笠」

2015年以来2度目となる優勝を果たしたのが、奈良高専の「三笠」だ。全5試合で最短24秒、遅くとも1分以内には全スポットに紙飛行機を着陸させてVゴールを達成するという、まさに圧巻のパフォーマンスだった。

奈良高専のロボット「三笠」の全景。ハードウェアの完成度が非常に高く、どんな相手でも勝てる「現場対応力」を実現していた。

その原動力は精度の高い自動化だろう。スタートゾーンを出てからの位置決めや、ターゲットを狙う打ち出し角度などが、それぞれボタン1つで決まるレベルまで練り上げられていた。LiDARセンサの利用や、経路追従アルゴリズム「Pure pursuit法」(リファレンスコースに対して、一定距離先の点を目標点とし、その点に到達するような旋回制御を実現する)などを採用。複数の技術を統合したGUIのソフトでコントロールしており、操縦者は戦略に応じて「どの的」「どの位置」という指示をボタンで伝えるだけで事が足りるのだ。

ノートPCが搭載されるデッキ部分。手前の左右角にLiDARが見える。非常に細かいところだが、ノートPCを面テープで固定しただけで良しとせず、下側をねじ止めしたコの字型の部品で支えているあたりに、“転ばぬ先の杖”を感じる。

もちろん、その自動化はハードウェアの完成度が高いからこそ実現できるものだ。金属部品と3Dプリンター部品が要所要所で組み合わせられ、足回りはオムニホイールやメカナムホイールではなく、4輪独立ステアリングのタイヤで構成されている。仰角はズレが少ないボールねじを選定。紙飛行機の送り出しには、繊細な調整が可能なサーボモータといった具合で、勝利に向けて妥協しない姿勢が、部品構成からも見て取れる。

出射用ローラを回すモータには、すべてヒートシンクを付けている。試合中回り続けても性能低下が起きないようにする配慮だ。

最速24秒で全試合Vゴールという実績から、Vゴールにこだわって製作された設計かと思いきや、実際には和歌山高専が見せたような大量得点や妨害射撃が行えるスペックを持ち、どんな相手でも勝てる「現場対応力」をテーマとしていたというから驚きだ。大会が終わり、結果が出てなお、その秘めた強さを見せられた気がした。

【準優勝】大分高専「國崩し」

前編でもお伝えしたとおり、大分高専の「國崩し」は、優勝の奈良高専と同様に決勝までVゴールを決めて勝ち上がってきたロボットだ。プロジェクト名に冠したのは、地元の戦国大名・大友宗麟が日本に初めて輸入したとされる大砲の名前。紙飛行機を打ち出す「砲塔」はそれに恥じない抜群の性能を見せていた。

4基ある出射装置はそれぞれが独立して操作可能になっており、3人の操縦者が3基をマニュアル操作して的を狙うほか、1基がスマートフォンのカメラで紙飛行機の軌道を撮影し、正しい軌道になるようにAIによる自動調整で出射するという「4基同時出射」が可能な機体になっている。それぞれ分散してコントロールできるうえ、しっかりと自動操縦の砲塔でも的を捉えたのが、高確率でVゴールを達成できた理由だろう。

大分高専の「國崩し」。ストッカーの紙飛行機は、27機が組み合わされて1列に繋がる構造で、1機ずつ出射されるように設計されている。紙飛行機は、尾翼後端を互い違いに折り返すことで、回転飛行を可能にするタイプだ。

ロボットに搭載されていたタブレットには、どの砲塔がどの的を狙っているかの情報と、砲塔の向きと仰角、打ち出すローラの回転数といったデータが表示されている。

出射装置はシンプルな設計が意識されており、連結された紙飛行機はレールの上にセットされ、押し出されながら回転ローラ側に1機ずつ送る仕組みだ。地区大会ではトラブルもあって力を出し切ることができなかったため、1週間でハードウェアを再製作したそうだ。前出の砲塔の長さを伸ばし、装填する紙飛行機の数を増量。向きを変えるターンテーブルのガタをなくし、全国優勝を目指した改良を盛り込んで本戦に臨んだという。準優勝ではあったが、優勝まであと一歩のところまで迫る、どちらが優勝してもおかしくないパフォーマンスを見せてくれたロボットだった。

【アイデア賞】長野高専「信州ずくだせランド」

遊園地をイメージして設計したという長野高専「信州ずくだせランド」は、独創的なアイデアが満載だった。「ずくだせ」とは、信州ではお馴染みの方言で、標準語へ変換しづらいがあえていうなら「やる気出せよ」に近い意味合いの言葉。ロボット上部に設置された6基の射出部が展開し、カイトフライヤーのように紙飛行機がくるくる回りながら、サイドスローで飛ばす仕組みがユニークだった。

出射台が回転して、紙飛行機をサイドスローで飛ばす機構は本大会で唯一無二のもの。紙飛行機は電磁石のオンオフで切り離す

ロボットの真ん中には、メリーゴーランドのように回転するティーカップがあり、その下部には観覧車やLED掲示板も搭載している。LED掲示板には、出射機構の回転数やメッセージが表示される。「記録より記憶」で、見るものを楽しませてくれたロボットだったが、実は見た目だけでなく、組み込みが得意な長野県の高専らしいハイテクが満載だった。まず回転する出射台の位置決め機構として、2列×24個の半導体レーザーと受光センサを採用。この半導体レーザーとセンサのセットによって、紙飛行機が正面に来たタイミングで出射位置を判断して飛ばせるようにしていた。さらに出射の方向も角度も速度も変えられる仕組みだ。

2列×24個の半導体レーザーと受光センサを採用し、回転する出射台の位置をコントロールしている。

出射台の回転数は約2rps(120rpm)で、前出のLED掲示板に情報が表示される。制御部はRapberry Pi搭載の複数のCPUボードを採用しているが、その配置や配線にもこだわりをみせており、とても綺麗にセットされていた。

制御系のアップ。CPUボードやモータドライバ、レギュレータの配置と配線の美しさに感心。見えないところにも手を抜かない長野高専は本当に凄い。

また無線はWiFiではなく、特定無線を採用しているため、混線の心配もないという。こういった仕組みは、実際に製作者に聞いてみないと分からないところだが、見えない部分に対する妥協のない凝り様は、まさに「技術者魂」を持つ高専生の特質ともいえるだろう。
ここだけの話だが、実はカイトフライヤーのような出射台には複数のLEDが直列に配置され、出射台が回転するとLEDの軌跡によって文字が表示されるギミックが盛り込まれていたそうだ。しかし回転数が遅かったため、文字がうまく表示されなかったとのこと。こういったプログラミングと制御技術も素晴らしい。残念ながら日の目を見ることがなかったので、ここに記しておきたい。

同校は1回戦で敗退してしまったが、唯一無二の工夫で見事にアイデア賞を受賞した。審査員からは「遊園地のユニークなデザインや、回転方式の遊具から出射される機構など、見るものを楽しませてくれて、ロボコンの主旨にも合致していた」と大いに評価された。

【セメダイン株式会社賞】大島商船高専「とうきくん」

大島商船高専伝統の木を主体にした構造の「とうきくん」は、レーザーカッターで切り出したパーツを凹凸で組み合わせてフレームにしたほか、クローラや回転部分の歯車も木製という徹底ぶりだった。

「ほぼ木製」なのがよくわかるショット。クローラまで木で作っているところが感心してしまう。

しかし最も注目してほしい点は、飛行機を出射するエネルギー源に「位置エネルギー」を利用し、最小限の動力しか使わずにフィールドの奥まで紙飛行機を飛ばしている仕組みだろう。ロボット後方にある丸く配置された紙飛行機を取りに行く構造で、アームを傾けるのは1つのモータの力のみ。紙飛行機を掴んだあとは動力を一切使わない。紙飛行機を出射するためにアームを「振る」エネルギーは、おもりのエネルギーで戻る位置エネルギーを利用している。紙飛行機を掴む指もワイヤー駆動を使った「からくり」ライクな仕組みで開閉する。つまり飛行機を掴んでから出射するまでが、モータ1個で完結してしまうという「スーパー省エネルギー」のロボットなのだ。

大島商船高専「とうきくん」。木でロボットをつくるのは同校の伝統。省エネ設計のカラクリの仕組みを導入。紙飛行機が真っすぐに出射されていることが分かる。

最初にアームを動かすためのモータユニットのアップ。1方向に動く「ワンウェイクラッチ」の構造を3Dプリンタで自作して、独特な動作を実現した。

【デザイン賞】有明高専「AppRoaching」

ロボットの最上部(天板)に空港を再現した有明高専「AppRoaching」。設計で最も力を注いだのは滑走路だという。ホルダーにセットされた紙飛行機は、自動車の立体車庫のように1段ずつリフトアップされて天板まで上げられる。紙飛行機がセットされているホルダーには磁石が仕込まれており、「誘導路」の下に組み込まれたベルトの磁石に引き寄せられ、文字通り滑るようにしてローラ式の出射装置まで誘導されていく。2つのカーブは、軸にスイッチが組み込まれたターンテーブルによって90度ごとにコントロールされており、2つある滑走路のうちどちらから飛び立つかを振り分けている。離陸時にはちゃんと加速する演出まである凝り様だ。

ロボットの天板に誘導灯を模した多くのLEDを配置し、説明なしで「夜の空港をイメージした」と分かる有明高専の「AppRoaching」。

トレーに1機ずつセットされた状態で誘導路の高さまで上昇する。紙飛行機を立てている透明なホルダーに磁石が取り付けられている。

デザイン賞というとロボットの外観が主になるというイメージを抱いてしまいがちだ。実際に青と緑のLEDを使用し、夜の空港に光る誘導灯をイメージした天板の仕上がりは抜群に美しい。しかし今回のデザイン賞の真価は「飛行機が飛んでいる姿だけではなく、離陸前の一連の動きを見ていただきたい」というメンバーの気持ちが目いっぱい詰め込まれていることだろう。出射に至るアプローチから、紙飛行機を飛ばすプロセスまで、すべてがデザインされていることが評価されたようだ。チームは1回戦で敗退したが、紙飛行機をしっかり「滑走路」に着陸させて1点を獲得したことも特記しておきたい。

紙飛行機を1段ずつ上げる機構は蝶番を応用しており、押し上げるとフリー、下がる方向でロックになる仕組みを取り入れた。

【本田技研工業株式会社賞】富山高専本郷キャンパス「SKY×FAMILY」

富山高専本郷キャンパスは、人とロボットのコラボレーションをテーマに、「SKY×FAMILY」で試合に臨んだ。このロボットは、一般的なコントローラによる無線操縦だけでなく、「モーショントラッキング」によって、操縦者の体の動きを検出し、ロボットへ出射コマンドを送るというオンリーワンのコントロール方法が最大の特徴だ。

親子で紙飛行機を飛ばして遊んでいるような雰囲気の富山高専本郷キャンパス「SKY×FAMILY」。“親”ロボットも腕を使って飛行機を飛ばすことができる。

出射方式は、ばねとモータのハイブリッド構成になっており、人が腕で投げているようなストロークから、最後は手首のスナップを利かせた動きで紙飛行機を飛ばしていた。ロボットの表情もLEDディスプレイで変えられる演出に表れている通り、「多くの得点を取ることよりも、人を楽しませることを目標に作った」というコンセプトが体現された機体だった。それを実現させるために組み込まれた高度な技術が評価された。

「モーショントラッキング」によって、操縦者の体の動きを検出し、ロボットへ出射コマンドを送る。状況によって、LEDで作られたロボットが笑ったり泣いたりするのが面白い。

【技術賞】和歌山高専「とば~す君」

出射機構を1つしか搭載していないにもかかわらず、横向きの筒(ベースA)のみを狙うという戦略で、全国大会最多得点ベスト3を独占したのが和歌山高専の「とば~す君」だ。1秒間に3.8機を出射できる高速連射を武器に、1回戦で195点、2回戦276点、3回戦は88点という驚異的な記録を叩き出した。3回戦で得点が減ったのは、残り1分からVゴールを阻止するために、対戦相手・徳山高専の紙飛行機を落とすプランへ切り替えたことが原因なので、その得点能力が抜群だったことは明らかだ。準決勝では、大分高専のVゴールに屈したものの、強く印象が残っているロボットの1つだった。

和歌山高専「とば~す君」。本大会で、出射台が1台のロボットは本校のみだったようだ。それにも関わらず、大量得点を取って度肝を抜かれた。ターゲットに向かって紙飛行機を一機ずつ正確に飛ばした。

出射機構は、3Dプリンタで制作した大型ローラを使用している。肉眼では速すぎてモータの勢いのままに乱射しているように見えるが、スロー映像で見ると半円形のカートリッジ状の装填機から、1機ずつローラに向かって送り出されていることが確認できる。出射される紙飛行機は、左右の翼の後端を上下互い違いに曲げることで、機体を回転・安定させるもので、他のチームも採用していたコンセプトだ。しかし、同校の紙飛行機は選抜メンバーが万力やアイロンを使って1機15分ほどかけて丁寧に折り、湿度が管理された箱で保管するという徹底ぶり。さらなる高精度を目指していたことが分かった。

対戦相手の紙飛行機が入らなくなるのでは? と思うくらいの量が撃ち込まれた円筒ベースA。得点力ということでは群を抜いていた。

出射装置からベースAに向かって、紙飛行機が回転しながら飛んでくるのが分かるショット。紙飛行機は1機15分ほどかけて丁寧に折って、湿度にも注意したという。

【ローム株式会社賞】国際高専「美技成 A-Z」

国際高専「美技成 A-Z」は、名前の読みが「びぎなーず」だ。機体には初心者マークが掲げられていた。その理由は、チーム3人全員が4年生にして初出場だから。それでも全国大会に進出できたのは、どうしてもロボコンに出たかったというチームメンバーの情熱と、ゆっくりだが確実に的を捉える出射機構を実現したことが成績に結び付いたからだ。

国際高専の「美技成 A-Z」(ビギナーズ)。チーム3人全員が4年生にして初出場なので、このネーミングになった。初心者マークも初々しい。

遠くのベースや滑走路を狙える上部のローラ式出射機構と、近くのスポットを狙える下部のばね式出射機構という2系統で競技に臨んだが、装填される飛行機の数は上部が21機、下部が18機と少なめだった。実は部員が少なく、多くの飛行機を折ることが難しいため、1機1機を着実に飛ばせる機構にしたという。前年ロボコン大賞の小山高専を相手に、1点差まで詰め寄る好勝負を見せていた点も印象的だった。

ロボットの上部には、遠くのベースや滑走路を狙えるローラ式出射機構を備える。写真は、そこに組み込まれたチェーン式の紙飛行機用ストッカーのアップだ。

近距離の的を狙う下部のばね式出射機構。ばねは市販品を使わずに、トライ&エラーで巻き数を変えながら弾性力を調整したという。

【アイデア倒れ賞&株式会社牧野フライス製作所賞】都城高専「華て!カババッ!」

メンバーが夢で見た「口から飛行機を飛ばすカバ」を実現させた都城高専の「華て!カババッ!」。カバの上でくるくる回る紙飛行機が、1機ずつ飛ばされるホンワカ系のロボットかと思えば、カバの下から滝のように大量の紙飛行機が飛び出してくるという、びっくり箱のようなギミックもあった。

都城高専の「華て!カババッ!」。上部に立てられた12機の紙飛行機は、1機ずつカバにポトリと供給される。そこからカバは1回ずつ口を開けて紙飛行機を出射する。

「アイデアは優れていたものの、真価を十分に発揮出来なかったチーム」に対するアイデア倒れ賞に輝いたのは、愛らしい外装だけが理由ではない。その中には美しい飛行姿勢で飛ばすカタパルト式の出射装置や、しっかり得点を取るために一気に200機を放出できるローラ式出射装置などの機能が搭載されていたことだろう。それらが惜しいところで能力を発揮できなかったことが、逆に注目されたのではないだろうか。

下部からの大量出射によって、手前のスポットに落として得点を取るはずだったが、角度が足りずにフィールドの手前に落下。残念!

【マブチモーター株式会社賞】大阪公大高専「AIRsROCK」

1機5点が獲得できる最奥の縦筒(ベースB)を目標に、極端に細長い紙飛行機で極限まで直進性を高めて戦ったのが、大阪公大高専の「AIRsROCK」だ。本大会では出射機構にエアシリンダを採用するチームが少ない中で、直進性にこだわった機構として選択した点がユニークだった。

1回戦では残り40秒ほどまで無得点で、相手にリードを許しながらも、ベースBの得点に成功し、逆転して勝ち上がった。2回戦では優勝した奈良高専「三笠」に24秒でVゴールを決められて敗退したが、わずかの秒数で40得点をたたき出している。精度を高めるためにロボットの位置決めも半自動制御で行われており、その能力の高さが証明されていた。

棘(とげ)のようにも見える上部の紙飛行機と、下部に見える巨大なエアタンクが特徴的な大阪公大高専の「AIRsROCK」。

装填された紙飛行機の下に見える筒が、自作したエアシリンダだ。モータ制御と異なり、オンオフのシーケンス制御で空気を送り、空圧で飛行機を押し出す。

MDFを利用したカートリッジ式の装填装置で、素早く紙飛行機を補給できるように考えられていた。

呉高専「Aspectal」

エアシリンダを採用した大阪公大高専と対戦し、惜しくも1点差で敗退したのが呉高専「Aspectal」だ。実は同チームもエアシリンダを採用。その理由は、電磁弁の開閉による制御や、レギュレーターによる圧力の微調整が可能なシンプルさだ。モータでは回転数の制御が必要になり、煩雑になるため避けたという。そのコンセプトは他の部分にも貫かれており、先輩が製作した制御基板を搭載し、伝統のPICマイコンとC言語によるプログラムによってコントロールされていた。

呉高専の「Aspectal」を横から見たところ。非常に美しい設計でロボット全体の剛性も良さそうだ。

しかし、すべてが枯れた技術で作られているわけではなく、足回りにはジェネレーティブデザイン(設計者がコンピュータ上のソフトに一定の情報を入力することで、最適な製品設計を生み出せる技術)の設計プロセスを採用し、有機的な曲面を持つフレームを作り上げて、高強度と軽量化を同時に達成。紙飛行機を運ぶベルトは、3Dプリンタで1コマずつプリントしたものをつなぎ合わせて制作した。地区大会から全国大会に向けては出射機構を1つ増やして3つとし、装填可能な紙飛行機の数も4倍以上にしたという。地区大会で技術賞を受賞していたのもうなずける機体だ。

1コマずつ3Dプリントされた樹脂製ベルト。製作するのに8時間ほどかかったという。

制御ボードの塔。手前にはジェネレーティブデザインで設計されたアルミ鋳造フレームが見える。

製作者の夢を実現したロボットが、エキシビションのために国技館へ!

全国大会前の地区大会で敗退したものの、特徴的なロボットを製作していた2チームによって、エキシビションマッチが行われた。ただし対戦ではなく、両ロボットの魅力が十分に伝わるように、1チームずつのデモンストレーション形式で披露された。

沖縄高専「うちなーちゃんぷるー」

「紙飛行機」というテーマが発表された段階で、内地との湿度の違いで紙飛行機の飛び方が変わったり、空輸でロボットを運んだ時に、現地での再現性が低いと判断した沖縄高専のチームは、勝ちに行く方針からアイデアで観客を沸かせる方針に変えたそうだ。

「シーサー」をモチーフにしたデザインのロボットのポイントは、操縦者の体に取り付けられたコントローラにより、ロボットの手や腕の動きが操縦者と連動する点だ。テーブルに載せた紙飛行機を把持するところから腕を振り、指を離して紙飛行機を飛ばす、すべての動きが操縦者の動きとダイレクトに連動するのだ。「ロボコンを見ている人に楽しんでもらいたい。ロボコンは楽しいぞ! ということを伝えたい」という気持ちは、ロボットが紙飛行機を投げるたびに、会場が何度もどよめいたことで伝わってきた。

投げる腕だけでなく、前後進も含めて操縦者の体の動きで操縦できるようになっていた。

連動操縦ではうまく飛ばなかったが、コマンドでの自動出射モードでは、まるで人間が腕を使って飛ばしているような、綺麗な腕の動きと紙飛行機の軌道を再現していた。

長野高専「鶴紙様」

長野高専「鶴紙様」は、地元の漆塗りが施された箱の上に、金属フレームで作り上げられた折り鶴のオブジェが銀色に輝いて印象的だった。しかも、折り鶴はただのオブジェではなく、それ自体が羽ばたいたり、出射台になっている。箱が開くと、鶴をモチーフにした紙飛行機が出射される。とにかく「折り鶴」への強い思い入れが感じられるロボットだった。

最初から「鶴の形をした紙飛行機を飛ばしたい」という一念で、「どうせなら鶴の形のロボットにしてしまおう」と考えたそうで、こだわり抜いて作ったロボットだけに、地区大会でもデザイン賞を獲得していた。競技面でも、まったく鶴が飛ばなかったところから改良を重ね、エキシビションではかなり飛距離を稼ぎ、あと一歩のところまで飛ばしていた。

長野高専の折り鶴が展開中。翼の上には鶴首付きの紙飛行機が待機している。出射方式はゴムによるカタパルト式を採用している。

最後に大会結果について、もう一度だけ記しておこう。全国の高専生は「技術立国の日本」の将来を支える宝だ。来年も彼ら彼女らの活躍に期待したい。

ロボコン大賞 徳山高専「双宿双飛」
優勝 奈良高専「三笠」
準優勝 大分高専「國崩し」
アイデア賞 長野高専「信州ずくだせランド」
技術賞 和歌山高専「とば~す君」
デザイン賞 有明高専「AppRoachIng」
アイデア倒れ賞 都城高専「華て!カババッ!」

協賛企業特別賞

本田技研工業株式会社 富山高専 本郷キャンパス 「SKY×FAMILY」
マブチモーター株式会社 大阪公大高専 「AIRsROCK」
株式会社安川電機 熊本高専 八代キャンパス 「fourtress」
東京エレクトロン株式会社 旭川高専 「吹雪」
田中貴金属グループ 香川高専 詫間キャンパス 「prize」
ローム株式会社 国際高専 「美技成 A-Z」
セメダイン株式会社 大島商船高専 「とうきくん」
株式会社牧野フライス製作所 都城高専 「華て!カババッ!」


井上猛雄
産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。「週刊アスキー」副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにエンタープライズIT、ネットワーク、セキュリティ、ロボティクス、組込み分野などを中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は、「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)など。

関連記事

タグ一覧

もっと見る

PAGE TOP

コピーしました