建築用 2022年09月16日

都市の中の砂利に見る自然(吉澤眞太郎:ランドスケープアーキテクト)

吉澤眞太郎

1976生まれ。株式会社プレイスメディア取締役。ランドスケープ・アーキテクト。千葉大学、芝浦工業大学非常勤講師、武蔵野美術大学特別講師。主な受賞歴と作品= 日本造園学会賞奨励賞、グッドデザイン賞に《新風館・エースホテル京都》(2020)、グリーンインフラ大賞国土交通大臣賞に《コンフォール松原B2街区》(2018)、環境設備デザイン賞最優秀賞に《早稲田アリーナ》(2018)、《東京国立博物館庭園再整備》(2021)、《渋谷駅東口地下広場》(2019)など。

街の中で見え隠れする砂利

街の中を歩いていると、つい視線を向けてしまうところがある。道路や側溝などの表面がはつれ、中身の砂利が見えているところだ。その砂利の色やかたちが気になってしまう。

写真1──道路際のL型側溝の表面がはつれ骨材が見えている状況と設置直後のコンクリート縁石(静岡市)

(以下写真はすべて撮影=筆者)

道路や側溝の素材はアスファルトやコンクリートでできていることが多い。いずれも骨材と呼ばれる砂利が主な原料となっていて、モルタルやアスファルトで固めてできている。打設当初、砂利の表面はモルタルやアスファルトで覆われていて、中の骨材は見えない。しかし経年変化で表面がはつれてくると中の骨材が見えてくる。砂利のかたちや色によって多様な表情を見せてくれる。打設当初は、デニムに例えるとワンウォッシュで藍色の生地であり、表面がはつれて骨材が見えてきたコンクリートはデニムでは経年変化で生地の表面が摩耗し藍色が落ち、織り目の縦模様が浮かび上がっている様に近い。

デニムは経年変化による生地の質感を最初から出す加工方法がいくつかある。ストーンウォッシュは石を入れた大きなドラムでデニムを洗い、縦落ちした色合いと質感を当初から出している。コンクリートも同様に打設当初から表面をはつったり、洗い流したり、研磨して骨材をあえて見せているものもある。この場合は化粧骨材といって、色が特徴的な砂利を指定して入れている場合が多い。

コンクリート、アスファルトから透けて見える近郊の自然風景

今回注目したいのは、化粧骨材ではなく近郊から材料が供給されている骨材である。砂利は山の砕石場から採取されたものを使うことが多く、その表面がゴツゴツしている。以前は多かったが川の砂利や海の砂利が使われていることもあり、こちらは角が取れ表面はツルッとしている。

道路面のアスファルトであったり、道路の脇にあるL型側溝や縁石のコンクリートであったり、砂利が顔を出しているところは、都市の周囲にある山や川、海の表情が透けて見えている。自然景観の色彩は河川ならばその河床を構成する河石であり、海岸線ならば水際の砂浜や岩場の色がベースとなる。またそのテクスチャは上流ならばゴツゴツしており、河川の下流に向けては川の流れの作用によって石の角がとれ丸みを帯びてくる。これらの色彩や表情が都市のなかに見え隠れする。

一見すると無機質なコンクリートとアスファルトだが、都市の中で自然素材の表情を見せている。いうならば砕石を骨材とした舗装は山の岩肌の景色を、川砂利の舗装は川の景色を、海砂利の舗装は海岸線の景色の一端を都市にもたらしている。

写真2──経年変化によって道路のアスファルトの表面がはつれ、骨材の砕石が見えている(静岡市)

写真3──経年変化によって道路際のコンクリートの表面がはつれ、骨材の川砂利が見えている(静岡市)

写真4──静岡市の海岸のごろた石は、写真3のコンクリートの骨材の砂利と同系色である

写真5──静岡市の海岸

図1──コンクリート骨材の採取場所★1

工業規格化された砂利、同じ規格でも岩石の違いによる多様な色と表情

砕石や川石は用途によって粒径や硬度の基準があり、日本工業規格(JIS)で規格化されて全国で生産、流通している。コンクリートでは粒径が5mm未満の細かい砂と5mm以上の粗い砂利の2種類を使っている。

砂利は用途によって吸水率、硬度、強度の基準があるが、基準をクリアしていれば岩石は種類が変わっても問題ない。砕石の原料となる岩石は、日本では砂岩と安山岩が主に使われるが、国内を広く見渡せば20種以上にわたっている。また、糸魚川静岡構造線に位置する糸魚川の海岸の玉石状の岩石は色の違いも含めると約50種類も確認されている★2。大断層線で地質境界に位置しているため、種類が多くなっていると思われる。一方でアメリカや西ドイツの砕石材料は石灰岩を主体として、3から4種類に限定されている。日本の砕石素材が豊富であるのは、やはり日本の複雑な地質構造を反映しているものであろう★1

日本は地方ごとに岩石が変わるため、その骨材の色や表情が異なってくる(写真68)。コンクリートやアスファルトだけでなく、砕石や砂利や砂は簡易的な舗装として、空き地に敷かれたり、神社の境内に敷かれたり、鉄道敷のバラストとして使われたり、小学校のグラウンドに使われたりする。それは地方によって、地質構造を反映した色が表出している。地域の材料を使うことによって、運搬に伴うコストや環境負荷を軽減し、その地域らしい景観をつくることの基底をなしているとも言える。昨今SDGsでも求められているローカリティ(地域性)や地産地消のよい例だと思う。

写真6──静岡市内の空き地に敷かれた砕石は、グレーの色彩で、海岸線の色調と同系色である

写真7──伊丹市の住宅に敷かれた砕石はグレーというよりは褐色が強い

写真8──岡崎市の砕石はグレーはなく褐色のみの色調である

砂利から「ぐり石」、石積み

砂利の粒のサイズが大きくなるにつれ、名称も変わってくる。5cm以上から20cmまでの粒径の石は「ぐり石」と呼ばれ、こちらも規格化されている。おもな用途としては建物の基礎の下に敷かれ、重さを均質に地面に伝え、沈下防止のために古くから使われていた。最近では植栽の足元に敷かれたり、建物の庇の下の雨落の下に敷かれたりしている。さらに大きいものになると、石積みのための四角錐に加工された間知石などとなる。各地方の城跡の石垣が各都市によって異なるのは、その顕著な例である。

最近では溶接された金網にぐり石を詰めて壁や土留に使う工法が散見されるようになった。当初は蛇籠といって竹で編んだ筒状のかごに石を詰め、川の護岸や土留の段差処理に使われていたものを、竹から鉄製の溶接金網のかごに置き換え河川の護岸で使われていた。これは「ふとんかご」と呼ばれていたが、ここ25年程で建築の外壁や足元の土留の壁に使わるようになり、街の中でも見かけるようになってきた。これも中の充填材が金網越しによく見えるので、ぐり石の表情が景観の一部となっている。

写真9──ふとんかごにぐり石を詰めた土留

都市を構成する素材のこれから

都市の中の舗装や構造物は、砂から砂利、ぐり石などさまざまな粒径の石材を、固める、敷く、積む、詰めることによって構成されている。それらはとくに石種を指定しなければ、それぞれの都市近郊の石で構成されてきた。その石の表情や色によってその都市周辺の地質や自然景観が、都市の中で垣間見ることができる。

都市周辺で調達可能な骨材は自然地から採取されるものだけでなく、工業製品の副産物や廃棄物を再利用する動きもある。解体されたコンクリートガラが、コンクリートの骨材や路盤材、ふとんかごの充填材に再利用されてきている。都市で生産、再利用された材料がその都市で見えるようになり、ひとつの「都市らしい風景」となっていくと言えるだろう。

写真10──再利用したコンクリートガラをふとんかごに詰めた事例

★1──五十嵐俊雄「日本の骨材資源──とくに砕石資源について」(「地質ニュース」、 1985年4月号)より引用。

URL=https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/85_04_01.pdf

 

★2──新潟県糸魚川市糸魚川ジオパーク協議会「糸魚川ユネスコ世界ジオパークの石」 参照。

URL=https://fmm.geo-itoigawa.com/wp-content/uploads/2019/07/leaflet010.pdf

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