建築用 2023年12月27日

未来のための「くっつける」Reuseデザインとは?(貝島桃代:建築家、スイス連邦工科大学チューリッヒ校教授)

貝島桃代(かいじま・ももよ)

1969年生まれ。建築家。スイス連邦工科大学チューリッヒ校建築ふるまい学教授。塚本由晴、玉井洋一とアトリエ・ワン共同主宰。2018年には「第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」日本館キュレーターを務める。同展カタログとして『建築の民族誌』(共著=ロラン・シュトルダー+井関悠、TOTO出版、2018)がある。2022年ウルフ賞芸術部門(建築)受賞。2023Arc Awardにおいて、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の学生たちとともに制作した《CircÛbi》が、Next Generation部門を受賞。またこの11月には、スイスの窓を調査しドローイングとして収めた、Swiss Window Journeys: Architectural Field NotesChair of Architectural Behaviorology, ETH Zurich, Momoyo Kaijima, Simona Ferrari, Lena Stamm, and Joel Zimmerli, eds., gta Verlag, Zurich, 2023)が、出版された。

アトリエ・ワンの作品=《ハウス&アトリエ・ワン》(2006)、《カナル・スイマーズ・クラブ》(2015)、《ツリー・ハウス》(2016)、《リサーチライブラリー》(2018)、《宮川筋のまちや》(2019)、《ハウス8 1/2》(2022)ほか。

アトリエ・ワンの著書=『空間の響き/響きの空間』(LIXIL出版、2009)、『Behaviorology』(Rizzoli2010)、『図解アトリエ・ワン2』(TOTO出版、2014)、『コモナリティーズ』(LIXIL出版、2014)ほか。

Reuseと「くっつける」

私が教鞭をとるスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)では、目下、地球資源をいかに未来に残して建築をつくるかという議論が盛んである。というのも、早くに技術発展を遂げ、都市化が進んだヨーロッパでは多くの資源をかつては植民地、現在もグローバルサウスに頼ってきたからである。これを続けるのは世界規模の貧富格差を拡大するばかりでなく、近い未来に人類の生存環境に甚大な負の影響をもたらすことは目に見えている。

なぜこのような議論が盛んなのか。ヨーロッパの大国、フランス、ドイツ、オーストリア、イタリアなどに囲まれた中央ヨーロッパに位置するスイスは、多様で独自文化の残る小さな自治を維持するために連邦制を採用し1848年に近代国家となった。ヨーロッパ中央アルプス周辺の厳しい気候により貧しかったが、科学技術を取り入れ、アルプスの水源を電力に変え、産業革命によって大きな発展を遂げた。中立国として世界大戦には参加せず、スイスの安定した政治と高い生活水準を理由に移住人口は増え続け、1900年から2022年までに2.7倍になり、今年900万人を超えるといわれている。さらに人口を増やして成長モデルを維持する政策は先日(20231022日)の総選挙でも争点となり、右派の国民党が議席を伸ばし後退したかたちになったが、どちらにせよ、これ以上、地球に負担をかけられないのは明らかだから、いまある国内や地域資源を持続的に活用することで建築文化を紡がなくてはならないことは明白である。「Reuse」(再利用)はそのキーワードのひとつであり、ETHZではその技術とデザインの研究や教育が模索されている。建築デザイン手法の講座やスタジオにおいても、Reuseを用いた循環経済の政策や起業まで、学際的な議論が欠かせない。

こうしたなか、日本文化も注目されている。南北に長く亜熱帯から亜寒帯までさまざまな気候を有し豊富な森林資源や水資源に基づいた林業や農業など、自然からの恵みを享受する日本における循環モデルは、西洋の自然/人工の対立モデルのオルタナティブとなりうるのかどうか。建築構法分野では、Reuseのしやすさを念頭に、日本の伝統木造建築における金物を使わずに部材を接合する仕口をはじめ、木、竹、土壁、茅葺、紙などの自然素材の活用方法のほか、接木や金継ぎなど修復技術にも注目が集まっている。スイスでは職人の人件費が高く、また厳しい気候により木材が硬質で加工しにくい特性があることなどから、同じ方法を用いることはできないが、こうした「くっつける」技術はReuseデザインを考えるうえでの突破口となりそうだ。

隅板で「くっつける」

建築設計事務所アトリエ・ワンでは、展覧会や仮設建築のデザインも手がけ、厳しい予算のなかで、展示後や設営後の作品の活用方法も設計条件として考えてきた。そうしたことから、野菜の無人販売所である《田園にたたずむキオスク》(「くまもとアートポリス1992」)では建設敷地の土を用いて版築しており、解体時はそのまま土に還るようにしたり、《ホワイト・リムジン・屋台》(「地の芸術祭  越後妻有アートトリエンナーレ2003」)では、車輪をつけて可動式にすることで、10mの長さの白塗りの屋台を場所を変えてあちこちに現われる公共空間に見立てたり、ベンチ付き本棚である《マンガ・ポッド》(「光州ビエンナーレ2002」)では図面やマニュアルをもとに誰もが組み立て解体ができるようにすることで、展覧会運用における作品の扱いやすさを考慮したりした。当時「Reuse」という言葉は使っていなかったが、建築が社会に開かれるようにしたいと考えたとき、おのずから材料や建設スキルが循環的なものになっていったのである。

そうしたなか、最近、隅板を用いることに関心が向いていくつかの空間をつくった。「隅板」とは「格子組を補強するために四隅につける三角形の力板のこと」(建築用語.net)である。建築は3次元の立体物であり、重力や風などの荷重が鉛直や水平方向にかかるためその影響で時間とともに、斜めに変形してしまう。これを避けるため、格子構造に、筋交や火打ち梁などの斜材を一定量反復しながら入れ、補強する。この時、隅板はじつに便利である。格子を組みながら、後からも先からも途中からも追加ができ、これによって構造が強固になるだけではなく、隅板の存在が反復されることで、スタンプのようにユニークな造形になるのである。

最初に紹介するのは、DIVERSITY IN THE ARTSのための「LOVE LOVE LOVE」展プレイベント(会場=東京ミッドタウン・ホールA、会期=2019714−16日)の会場構成である。ここでは作品展示空間と同時に、アーティスト制作空間やワークショップ会場、イベント用の集会ステージと客席が要求された。超高層ビル下層部にある、自然光の入らない、天井の高い、絨毯敷のイベントホールで、3日間という短期間の展覧会である。予算、建て込み、解体の時間が限られていたこともあり、垂木の格子組と、Reuse材として流通している仮設用のアート展示パネルや舞台美術に用いる箱馬を組み合わせ、全体を構成した。格子の固定には赤、黒、白に塗り分けた、三角の隅板をランダムに配置した。ワークショップ会場では、こどもたちやアーティストがつくった作品を展示でき、さらには会場を照らす照明を設置した櫓をシンボルとして建て、夏暑い時期に似つかわしい、夜見世のような、落ち着きと華やぎのある会場になった。

Reuse材を活用した展覧会の会場構成の事例
LOVE LOVE LOVE」展プレイベント(2019)のようす
作品展示空間
© Atelier Bow-Wow

Reuse材を活用した展覧会の会場構成の事例
LOVE LOVE LOVE」展プレイベント(2019)のようす
イベント用の集会ステージと客席
© Atelier Bow-Wow

Reuse材を活用した展覧会の会場構成の事例
LOVE LOVE LOVE」展プレイベント(2019)のようす
ワークショップ会場の櫓
© Atelier Bow-Wow

次に紹介するのは、《CircÛbi》(2023)という名前のパビリオンである。ETHZFocus Workとよばれる集中演習で、建築学部12人の学生と一緒に、1987年から2022年まであった木造仮設校舎Huber Pavilionの材料を用い、約2年間、屋外教室として利用される仮設建築のデザインに臨んだ。設計ではHuber Pavilionにおける7mスパンの製図室に用いられていた三角形の木造トラスを、そのまま組み合わせてつくることを条件に、最初の1カ月間にまとめられた12案の学生案を議論しながら、それらを集約し、三角形の平面をもつ、トラスを2段に組み合わせた案をまとめた。次の1カ月間に、この詳細設計と自力建設準備を行なった。夏休みに入り、並行して行なわれていた、サーキュラーエンジニアリングの講座の学生も加わり、総勢30名で、大工や工務店のアドバイスを受けながら、2週間をかけ自力建設を行なった。ここでも隅板が活躍した。サーキュラーエンジニアリング講座が管理する、Reuse材のストックヤードにあった木板を組み合わせ、板小口を天然素材の白色塗料で塗装して保護した。これをトラス内部に設置、各トラス材と六つのスクリューで固定した。大きさはスクリューの数から割り出して、コンパクトなものとはしたが、その大きさはReuse材を繋ぎ止める絆創膏のようで、単純だが、ユーモラスなディテールの接合部となった。

Reuse材を活用した仮設建築の事例
屋外教室として利用されるパビリオン《CircÛbi》(2023) 俯瞰
© Chair of Architectural Behaviorology, ETHZ

Reuse材を活用した仮設建築の事例
屋外教室として利用されるパビリオン《CircÛbi》(2023) 正面
© Chair of Architectural Behaviorology, ETHZ

Reuse材を活用した仮設建築の事例
屋外教室として利用されるパビリオン《CircÛbi》(2023
隅板を用いた接合部
© Chair of Architectural Behaviorology, ETHZ

最後に紹介するのは、《Solar Garden》と呼ばれる温室である。西ベルリンに位置する芸術アカデミーで開かれている「The Great Repair」展(会場=ベルリン芸術アカデミー、会期=20231014−2024114日)にアトリエ・ワンが出展した、解体された温室のReuse材を用いて再び温室を制作した作品である。展覧会場となったこの建物は西ドイツ時代の1960年につくられ、鋸屋根のアトリエの中央に設けられた中庭は近年活用されていなかったが、ここに、アカデミーの以前の展覧会で用いられた垂木、温室解体の際に不要になったポリカーボネート製複層パネル、コンクリートPCブロックなどのReuse材を用い、会期中、二つの展示室を繋ぐ廊下ともなる温室をデザインした。1/4円断面を支える構造を40mm角の垂木のトラス梁で構成する。屋根から壁まで同材であるポリカーボネート製複層パネルを重ね葺きすることから梁を分割した。垂木は細くそれ自身で接合するのは難しかったので、隅板による接合を採用した。多角形になる隅板とビスの位置を図面制作して、Reuse材の合板をレーザーカットした。その後マジックアワーの空の色を参照し奥行き方向に塗り分けた。製作の過程では隅板そのものが架構製作のジグとなり、完成後は装飾になる。温室には日本のプロダクトデザインの草分けのひとりである渡辺力(1911−2013)の、第二次世界大戦後のもののなかった時期、限られた材料と家庭にある座布団を組み合わせることで提案された《ヒモイス》(1952)を参考に、ベンチも計画した。ひも用の穴を開けた骨組を用意し、展覧会開会後、ひもはインカの作家(Liliana Armero, Santiago del Hierro, Viviana Jacanamejoy, Freider Legarda and Jean Mutumbajoy)とのワークショップで設置されベンチがつくられた。

Reuse材を活用した展覧会出展作品の事例
温室《Solar Garden》(「The Great Repair」展、2023) 内部
2点とも© David von Becker

Reuse材を活用した展覧会出展作品の事例
温室《Solar Garden》(「The Great Repair」展、2023) 外部
© Harry Schnitger

Reuse材を活用した展覧会出展作品の事例
温室《Solar Garden》(「The Great Repair」展、2023)内で行なわれたワークショップ
ひもでベンチがつくられた
© Harry Schnitger

Reuseのために

一般に建築設計ではまず建築を計画し、これにあわせて、材料を選び、デザインをまとめることが多い。しかしReuseのデザインでは、Reuse材があるところから、デザインが始まる。そのため、Reuse材を観察、分析し、その特性を伸ばすことで建築するのである。だから隅板はひとつのアイデアだが、Reuse材をどのように「くっつける」か、これがReuseデザインの要になりそうだ。

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