建築用 2022年01月28日

フィックスとルーズのつくる生物的な環境(建築家:金野千恵)

金野千恵

1981生まれ。建築家。t e c o主宰。京都工芸繊維大学特任准教授。《向陽ロッジアハウス》(2011)、《地域ケア よしかわ》(2014)、《ミノワ座ガーデン》(2016)、《幼・老・食の堂》(2019)ほか。2016年、第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展会場デザインを担当。
https://teco.studio

建築やまちといった私たちの生活をかたちづくる環境は、ある瞬間にできて終わりではなく、リズムを生んだり、人によって育てられたりと、まるで生き物みたいに変化する存在だなと感じます。
同時に、建築や設えを構成する素材、形、部位の性状へ解像度を上げてみると、気候によって材料が呼吸したり、自然の摂理が形態をつくったり、これも生き物のように内在する仕組みがあるように感じられます。

このように、建築が生き物らしい性格を帯びることのひとつには、固定されて動かない「フィックス」の部分と、動きや変容を許す「ルーズ」な部分が、調整をしながらひとところに同時に存在することが挙げられるかなと感じます。
今回は、こうした視点から、これまでのプロジェクトを横断的に捉えたときの気づきについて書きたいと思います。

膨張収縮をゆるす木ブロックテーブル

私たち設計事務所t e c o は、畝森泰行さんの事務所と浅草橋のビル「BASE」をシェアしています。

1階には、日頃から食事をつくるスタッフの調理場となり、外部の人にも活用してもらえるようなキッチンテーブルを、大きく特徴あるものとして計画しました。
できるだけ足元を自由にするため、天板は2本のスチール脚と2本の吊り材によって、フロアと天井を各々固定しています。

また、天板には4種(スギ、ベイマツ、ヒノキ、ヒバ)の無垢の木ブロックを敷いていますが、これら無垢の木材は湿気や温度の変化で膨張収縮を起こすため、その性質と付き合うために固定する部分とルーズにして自由度を設け部分のバランスが重要になります。

そこで、四周は接着とビスを併用して固定し、その内側は、隙間を開けながら固定せずに木ブロックが劣化した時に裏返して変えられる仕組みとしました。
今のように冬場は乾燥して水分が失われ、縮もうとしてバキッバキッと音が鳴り、湿度の高い梅雨の時期は木材が膨らみます。こうした気候による材料の変形を読み取り設計することは、建築の肌理と対話する楽しさがあります。

シェアオフィス「BASE」1階にあるキッチンテーブル
Photo by Yurika Kono

重力や弾性から形をつくるシェード

設計者は、ついつい線が自由で何でもつくれるかのようにイメージすることがありますが、じつは、重力に沿って物質の重みが描く放物線や、物質の弾性を生かして描かれる曲線など、自然界がつくる美しい線を意図的に引くことは簡単ではありません。

「野生展──飼いならされない感覚と思考」(21_21 DESIGN SIGHT、2017-18)という展覧会では、南方熊楠の菌類学、植物学といった世界観を、重力と空気を表すようなシェードで造作しました。天井から吊った木製の円形フレームにサテンリボンを固定し、リボンが描く放物線の密度に差異をつくりながら調整しました。サテンリボンという軽い素材が重力を受けてつくる放物線は、軽やかな軌跡をかたちづくり、周囲に生む陰影を多様につくりました。

また、畝森さんの事務所と協働した、岩手県北上市の《北上市保健・子育て複合施設 hoKko》(2021)では、設計の肝となった平面中央の大きな広場のなかに、雲のようなフワッとした形状のペンダント照明を製作しました。
ユポ紙というポリプロピレン樹脂を無機充填材で合成した、柔らかいながらもコシがある、透過性のある合成紙です。これをスチールのアームで部分的に両面テープとビスを併用しながら固定し、曲面はユポ紙の弾性を生かす形で全体をつくりました。
ユポ紙の薄さが包み込む形は、光とともに、軽やかに自然界の雲のような形を想起するシェードとなりました。物性のつくるラインから全体性の意味を再び考える時、大きな自然と繋がるイメージが想起されるなど、全ての線を自ら確定するのと異なる醍醐味があります。

「野生展──飼いならされない感覚と思考」の弾性シェード
Photo by t e c o

《北上市保健・子育て複合施設 hoKko》のペンダント照明のシェード
写真提供=Daiko-Ikue Arima

棟と軒の関係からねじれる屋根

さきほどのプロダクトのように、物性のフィックスとルーズで形が決まるものがもあれば、さらに大きな建築部位のスケールで、構成を決定していくフィックスとルーズもあります。

現場が進行中の杉並区の住宅は、第一種低層住居専用地域を敷地とし、限られた敷地に2台以上の車を駐車する予定がある車好きなご家族の住宅です。
南側に駐車スペースを寄せ、住宅を北側に寄せる方針が見えた頃から、北側斜線による高さ制限の厳しさを、南北軸方向に屋根を開いて解消することを考えました。

切妻屋根の軒高さを固定しながら棟を南北軸の角度で振り、屋根面の一方の勾配を固定して南へ棟を上げると、他方の屋根面は棟と軒の間でねじれ、太陽に向かって柔らかく広がる屋根となります。

勾配屋根をつくるパラメーターは、平面形、棟や軒の長さと高さ、勾配、など複数ありますが、どこを固定しどこを開放するかで、形態は大きく異なります。位相幾何学における固定と開放の関係から、数理的に美しい形態を生み出しているといえるでしょう。

杉並区の住宅のねじれ屋根
Photo by t e c o

建築の輪郭と活動に奥行きをつくる庇

建築の外壁ラインというのは、内部の暮らしや機能を日射や風雨から守るために、固く構成するのが基本ですが、固い壁面のなかに窓があったり庇が取り付くことで、その建築に奥行きが増し、自由度が高まります。

神奈川県厚木市にある《カミヤト凸凹保育園》(2018)は、定員90名の保育園と障がい児童のデイサービスを併設しています。
ここでは、敷地をなぞるロの字型の廊(ギャラリー)を幹に、その内外へボリュームを配置する伽藍配置のような構成とし、2つの庭とその周囲にさまざまな距離感を生む設計としました。すべての保育室を断面方向に見ると、ハイサイドライトをもつ切妻ボリューム、勾配屋根の半屋外空間、園庭と順番に並べられています。

内部の保育室、外部の園庭は比較的に明快な機能を担うのに対し、真ん中の半屋外空間は、内部、外部、どちらにも役割を寄せられる自由度を持っています。季節や時間帯によって、ダイニング、工作スペース、かけっこレーン、お散歩コース、読み聞かせなどが多様に展開し、まさに一日のリズムで変容する空間となります。

《カミヤト凸凹保育園》

Photo by Yasuyuki Takagi

占有 < 共有の働く場

浅草橋にある私たちのシェアオフィス「BASE」は、2020年秋のコロナ禍に使用を開始しましたが、当時、親しい建築家には実空間のオフィスを引き払いフルリモートへ移行する人がいるなか、「集まって働く意味やその空間とは?」という問いの答えを探すように、ハードの改修内容や使い方を考えてきました。

物件を探す時から、路面に事務所を構えることを重視し、集まるからこそできること、地域と繋がったり、事務所や働くことを開いたり、さまざまな実験をしたいと考えるようになりました。

5階+塔屋のフロアのうち、2つの事務所が1フロアずつ固定で占有し、残りの4フロアを自由度の高い共用部としました。この共用部に打ち合せスペースや水まわりを設け、メンバーが動くことで建物をアクティベートすることを考えました。

また、1階「SQUARE」はまちに開くことが可能な角地として、前面ファサードを木製サッシへ改修し、フルオープンとなる機構へ変更しました。通常は打ち合せに使用しますが、カフェ営業や、ギャラリーなどに利用することで、これまで関わることのなかった人と繋がる可能性を感じます。

用途やそれに伴う設えをいかに固定し、自由にするかによって、働き方のリズムをデザインできるのだと、感覚を積み重ねているところです。

シェアオフィス「BASE」
写真提供=Yurika Kono

学び育つチーム

独立して約11年、t e c o という設計事務所を始めてから6年半の年月が経ちました。
住宅とともに家具や遊具、展覧会の会場構成などに携わり、この5年ほどはケアに関連するプロジェクトも多くなりました。

さらに、近年は規模が大きく複雑化するなかで、チームのつくり方にも変化が出てきました。

2018年、岩手県北上市の公共建築の設計プロポーザルで、はじめて設計共同体(設計のJV:ジョイントベンチャー)というかたちで、畝森さんの事務所とともに取り組み、勝利して協働してきました。

これまでにはほかにも、大学時代の研究室の後輩である小坂森中建築と福祉施設を共同で設計したり、大学の大先輩の武田光史さんとインドネシアのプロジェクトを協働してきました。

いずれも、はじめからひとつの組織として意思統一をして設計するのではなく、2つの異なる特徴をもつ組織が協働するからこそ生まれる化学反応を期待しながら、プロジェクトに取り組んでいます。

今回のレポートは、これまでのプロジェクトを通して、物事をいかにフィックスし、ルーズさを残して設計するか、さまざまな視点の気づきをまとめる機会となりました。
物性のもつ原理、幾何学の法則、外壁の奥行き、用途の分節、思考する組織といった、ミクロから建築スケールまで、ハードからソフトまでをひとつながりに考え、このチューニングによって生まれる風景のリズムに、改めて可能性を感じています。

【了】

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