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建築用
2023年02月27日
時間を設計する──「くっつけかた」と「はがしやすさ」(岩瀬諒子:建築家)
「アップサイクル」「リサイクル」──ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展から考え続けていること
持続可能な日常や社会を考えることが世界的な規範となりつつある情勢のなかで、建築分野においても、アップサイクル、リサイクルなど、使われなくなった建築部材を再資源化する取り組みがますます身近なものになってきている。木材を例とすれば、柱や梁の経年による黒ずみや傷、加工跡なども活かして価値に変えていくのをアップサイクル、細かく刻んでウッドチップや紙、ボードなど原料や素材に分解するのをリサイクルと大きく分けて考えた時に、本稿では前者のようなリユースについて、「くっつけかた」と「はがしやすさ」の観点から考えてみたい。
ちなみに、2021年の第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示をきっかけとして、筆者自身、現在も日本とノルウェーの古材を中心に組み合わせて恒久的なコミュニティ施設を新築する設計にチームで関わっているが、その建設予定地のあるノルウェーでは、今年に入りリユース材を使用しやすくするための法改正が行われた。また、資材調達では解体される建築の資材をサルベージして流通するマテリアルトレーダーとも協働しているが、彼らの倉庫に保管された資材はデータベース上で世界中から常時検索可能であったりと、現代建築における廃棄物を再資源化しやすくするための実践は、解体方法などの建築の物理的な側面のみならず、法規、物流、その他の多様な場面で、同時多発的に行われていることも忘れてはならない★1。
「くっつけかた」と「はがしやすさ」
建築部材のアップサイクルを考えた時に、部材同士がどのように「くっついているか」、「はがしやすいか」によってその部材のその後の明暗が分かれるという意識は、ヴェネチア・ビエンナーレ建築展で一軒の住宅の部材を資材としてていねいに取り出す解体現場に立ち会った体験から実感として持っている。
住宅を構成する部材を「はがしやすい」、すなわち資源化しやすいという視点から並べてみると、「襖などの建具」、「瓦や柱、梁などの軸組材」など噛み合って留まっている部材がはがしやすく資源化しやすい部類だが、「モルタル壁」などの「湿式工法の外壁」や接着などで複合化された「壁の仕上げ面」、薄いベニヤや垂木などの薄い面材や細い線材などは保存が難しい部類に属している。取り出したい部材の接合部の種類で大別すると、接着や溶着などの方法で「化学的に一体化されているもの」は資源化しにくく、ネジやボルトなどで「機械的に留まっているもの」、「接合部の形状による噛み合い」の順に資源化しやすいと言えるだろう。
アッセンブルされたものを資材として取り出す場合には周囲の部材をカットして使用範囲を丸ごと取り出す必要がある。ヴェネチア・ビエンナーレ建築展のプロジェクトのための解体現場でも、かわいらしいタイル壁とモルタル壁にインターホンが付いた外壁の一部をリユースするために、一体化された軸組み材ごとカットして引きはがすような形で取り出したことがあった。しかしながら、外壁の防水性能を活かしてモバイルキッチンのテーブルトップにしようとすると軸組み材分の重量が重かったり、何度か用途変更を試みているがなかなかいいアイデアに出会えずに現在に至る。資材として取り出す単位による重さに依拠するところも大きいが、もし「タイル」と「外壁+下地のみ」という別の単位で手間をかけずにはがせたら、別の用途に開かれていたかもしれないと考えると改めて、はがしやすいことが建築資材のアップサイクルの可能性に大きく影響を及ぼしていることは間違いないだろう。タイルそのものに文化財的価値があれば一つひとつ剥がすこともありえるが、私たちのプロジェクトではこうしたプロセスを経ることなく大多数のタイルは廃棄する判断をした。
この接合部の「はがしやすさ」を少しスケールを変えて考えれば、日本の伝統工法による木造住宅が、地面とはがしやすく比較的軽量であることも、家を丸ごと動かす曳家が可能になっていることと無関係ではないように思う(ちなみに、解体現場に立ち会った住宅は戦後に平屋の住宅として建てられてから立体的にも平面的にも増改築が繰り返されてきたため、さまざまな時代における構法の変遷を垣間見ることができたが、時代を経るごとに部材の接合が複合化しているため、切断の手間を前提とした、はがしにくくなっていた)。
「はがしかた」から考える空間
こうした「はがしかた」のもつ可能性をプロジェクトの創造性として据えられないかと試行したものが《石ころの庭》である。用途を終えた建築の部材を「はがす」アップサイクルに対して、「はがしやすさ」を設計時にインストールすることで、用途を終えた後の行き先に自由度を与える「プレサイクル」のようなものを構想した。京都市の公共劇場ロームシアター京都の中庭に、4週間という短い期間のためのパフォーマンス空間を設計するプロジェクトである。敷地も広く、環境的側面や資材不足の社会情勢からも、大量の資材を使い捨てる構築手法からは脱却する必要があったため、採石場から建設現場に向かう砕石を大量に敷地に「途中下車」させて石を並び変え、一定期間の空間をつくる。いわばていねいな仮置きプロジェクトというようなもので、会期を終えればもとの砕石に戻り、どこかの建設現場へ旅立っていく構想だ。
全部で230tの砕石を運び込んで積み上げたそれぞれ形の異なる6つの石組みが配置されるが、積み上げられた砕石同士は一切固着されていないことが重要である。一定の間隔でテキスタイルを挟みこむことで石の摩擦と自重のみで安定させており、化学的接合でもなく、機械的接合でもなく、摩擦的接合のようなものである。それなりに安定しているが、特に端の方は触れたり踏みしめれば石が動いてしまうような脆さと緩さも伴っている★2。
建築家の青木淳さんとの対談の機会をいただき、青木さんに《石ころの庭》の「建設」「解体」のフローを説明した際、このプロジェクトは「砕石場の砕石」と「建設現場の砕石」との間の状態であり、「建設」「解体」という言葉を使って、変化する一連の状態として据えるべきではないかという主旨の指摘を受けてハッとした。「竣工」や「解体」などという名称で呼ぶことによって、建築プロジェクトに並走するマテリアルの時間を点として区切っている自分に気づいたからだ。
今後もさまざまな観点から建築部材の「再利用」の実践が取り組まれていくだろう。そうしたなかで、建築が用途を終えた後を想定して、何らかの「はがしかた」を設計にインテグレートすることが、日本でも標準的価値になることが望ましいと考えている。ある一定期間暫定的に「くっついて」いるけれど「はがしやすい」。そんな仮張りのようなイメージは、部分としても全体としてもいかようにも据えられるし、多様な創造に開かれている。
そもそも頑強に「くっつけ」て安全な構造体を得ることを基本とする建築で、「くっつけかた」「はがしかた」を考えることは、建築や素材の時間を設計することと言えるかもしれない。こうした実践が大きなうねりとなり、持続可能な社会に一歩近づくことを願う。
石組の断面図。石の摩擦と自重で支持させジオテキスタイルを挿入することで安定している。石ころアドバイザー(構造)はテクトニカ鈴木芳典氏と東京藝術大学の金田充弘氏
©岩瀬諒子設計事務所
注
★1──説論「資料|動き続けること──展示制作プロセスを巡って」
https://medium.com/kenchikutouron/%E8%B3%87%E6%96%99-%E5%8B%95%E3%81%8D%E7%B6%9A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8-%E5%B1%95%E7%A4%BA%E5%88%B6%E4%BD%9C%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%BB%E3%82%B9%E3%82%92%E5%B7%A1%E3%81%A3%E3%81%A6-4960bcac1fa7
★2──OKAZAKI PARK STAGE 2022「GOU/郷 記録写真」
https://rohmtheatrekyoto.jp/archives/ops2022_gou_photo/
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