建築用 2021年09月17日

「くっつける」ことは「境界をデザインする」こと【前編】(建築家対談:山道拓人+冨永美保)

山道拓人(ツバメアーキテクツ)+冨永美保(トミトアーキテクチャ)

山道拓人
1986年生まれ。建築家。2013年、ツバメアーキテクツ設立。2021年、法政大学デザイン工学部建築学科山道拓人研究室主宰。
http://tbma.jp

冨永美保
1988年生まれ。建築家。2014年、トミトアーキテクチャ共同設立。慶応義塾大学、芝浦工業大学、横浜国立大学ほか非常勤講師。
https://tomito.jp/


建築は、性質の異なるさまざまな素材の特性を見極めて、壊れないように、雨漏りしないように、依頼主の要望を受け止め、そして時代のリアリティに即して、複雑な関係性を構築していくことにほかなりません。関係を調停し、より充実した空間を作っていく。その現場では、ものともの、人と人、こととことを「くっつける」ためにどのような挑戦が行われているのでしょうか。
建築家のみなさんの実践から、「くっつける」ことをめぐる豊かなアイデア、工夫、技術を集めていきます。


 

顔
 

 

今日は建築家の山道拓人さんと冨永美保さんから、まずは、これまでのお仕事の中から「くっつける」にまつわるプロジェクトをご紹介いただきます。

 

顔
山道

 

よろしくお願いします。私の事務所「ツバメアーキテクツ」は、設計事務所とシンクタンクという2部体制をとっています。デザインに加え、その空間が成立するための枠組みを事前に検討し、完成後の使い方や将来の展開も同時に考えながら、リサーチやマーケティング提案も含めた幅広いプロジェクトに取り組んできました。これまでに手がけたプロジェクトの中から、いろいろな「くっつける」を実現した3つの例を紹介します。

 

01|《下北線路街 BONUS TRACK》(2020)

(提供=ツバメアーキテクツ)

(撮影=morinakayasuaki

(撮影=morinakayasuaki

まずは《下北線路街 BONUS TRACK》です。地下化した小田急線下北沢駅付近の開発に伴って作られた、新しい商店街です。

全体は5つの建物と路地で構成され、そのうちの4つは店舗(1階)と住居(2階)がくっついた「兼用住宅」という建物になっています。法律では、住宅地に商業施設を作ることはできませんが、昔の牛乳屋や畳屋のように、一般に生活に必要な商店で、かつ住宅の50%以下の面積であれば、住宅の一部を店舗にしてもよいことになっているんです。今回の敷地の半分ではその仕組みを利用しました。

もう半分の下北沢駅側の範囲は、少し大きな建物を作ることができるエリアだったので、ギャラリーや食堂、書店など、ほかの4つとは異なる業種・規模のお店を入れられるように計画しています。

また、建物自体は完全にデザインしきらず、あえて“遊び”を残すように設計しました。お店があとから庇や壁を改造したりできるようにディテールや仕組みを工夫したり、そのためのマニュアルの作成などもしています。

一般の商業施設では、テナントの範囲外にものを出すことはいちいち許可を取らないと難しいと思いますが、この施設では、譲り合うことを前提にどんどんものを出してよいことになっている。そのおかげで、お店の中から商品棚やテーブルセットが外部に溢れ出し、お店が街の一部に自然と溶け込んでいます。

コロナ禍でも社会状況に柔軟に対応できるような緩やかな連帯が生まれています。かつての線路が分断していた住宅地を再び結びつける、失われつつある職住近接の商店街の街並みを創出して過去と未来をつなぐなど、さまざまなもの同士を結ぶプロジェクトになりました。

02|《レザーベンチ》(2019)

(《レザーベンチ》模型 撮影=ツバメアーキテクツ)

(《レザーベンチ》模型 撮影=ツバメアーキテクツ)

(提供=Pool Inc.

(提供=Pool Inc.

次に紹介するのは、ストレートに「ものとものをくっつけた」作品です。

兵庫県のタンナー(動物の皮をなめして革にする職人や業者)から、革を切り出す工程で出る大量の端材の再利用方法についての相談を受けて、手で端材の革をちぎりながら、革用の接着剤で木製のベンチに貼っていきました。

DIYで革を貼ることで身近なものを革製品に改造できる」というコンセプトで制作した作品ですが、端材も何か別のものと結びついたり組み合わさることで、このように素材として再生しますし、そうすることでものの新しい魅力を引き出すことができることが示せた作品だったと思います。

03|《粉室製作所の最上階》(2019)

(撮影=kenta hasegawa

3つめは、ものづくりで有名な東大阪市で、ネジやビスを製作している粉室製作所という企業の工場の最上階に作った空間です。食事や社内イベントのためのスペースですね。普段、あまり交流がない工場勤務の人たち同士を「くっつける」ことを目的としています。

普通、ネジやビスはあまり外から見えないように打つ、縁の下の力持ち的なものですよね。そこで、以前から粉室製作所と協働し、また僕たちより先にこの場所のデザインに取り掛かっていた、デザイナーの狩野佑真さんと協働して、ビスを使いつつ遊び心のあるデザインを考えることにしました。

例えば、ビスを樹脂で浮かせたサイドテーブルを製作したり、窓からの光を反射しそうなところにワッシャーを床に撒いて、上から防塵塗料を塗って貼り固めたりしています。要はビスやワッシャーが休憩しているイメージです笑。

顔
冨永

 

よろしくお願いします。あらためて振り返ると、建築家である私たち「トミトアーキテクチャ」は、いろいろなものをその場でコラージュし、工作のようにものづくりをしてきたような気がします。「こういうものを作ります」と大きな計画を立ててストーリーを進めるのではなく、施主と一緒に長い時間を過ごし、場所を知りながら、ものを作っていくことを大切にしてきました。私も3つの例を紹介します。

 

01|《casaco》(2016)

(提供=トミトアーキテクチャ)

最初は、横浜市西区の東ヶ丘という300世帯ほどの街にある1軒の空き家を改修して、地域に開いた場所を作ろうというプロジェクトです。

どんな場所にするかを決めるため、まず街を知ることからはじめました。例えば、街の出来事を街の皆さんにヒアリングし、記録しました。「昔この場所にはプールがあった」「小学校は中腹にあるので、丘の上から通う子と、ふもとから通う子がいる」など、一つひとつはとても小さな思い出や情報なんですが、それを4コマ漫画のように描いて重ねていく。するとだんだん街のことがわかってきますし、いつの間にか情報やものがひとりでに集まってくるようになりました。

また、月に一度「東ヶ丘新聞」を発行して町内に配布しました。おかげで、最初は何をしているのか不審がっていた人たちにも安心してもらえたし、また「ここで料理教室をさせてほしい」といった声が届くようにもなりました。

こんなふうに、街の出来事や情報をつなぎ合わせながら設計を進め、最終的にこの場所は、留学生のシェアハウスと、地域のさまざまなイベントスペースを兼ねた多様な空間になりました。

02|《真鶴出版2号店》(2019)

(提供=トミトアーキテクチャ)

(撮影=小川重雄)

(撮影=小川重雄)

次は、神奈川県・真鶴半島の古い空き家を改修し、宿と小さな出版社(真鶴出版)を作るプロジェクトです。

この地域には、背戸道(せとみち)という細い道が網目状に広がっていて、すれ違う人と人が挨拶をし合う。とても心地よい空間で、「《真鶴出版2号店》も背戸道の一部のように作ろう」ということになりました。

郵便局で使っていたアルミサッシや空き家の建具、港でもらった錨など、半島のさまざまな場所からもらってきた端材や古材を集め、組み合わせてここに接着しています。ほかにも、既存の基礎、前からあったものと、真鶴半島中から集まってきたものをくっつけ、連動させて新しい部分を作ることで組み上がったものが《真鶴出版2号店》です。

03|《嫁入りの庭》(2019)

(撮影=本村仁)

最後に紹介するのは、仙台市の特別養護老人ホームの庭です。庭はもともとありましたが、入居者も出てこないし、生垣が道と施設を隔てていて、外からは中の様子がわからない状態でした。そのためでしょう、「施設と地域とをつなぎ、コミュニケーションができるようにしたい」という依頼を受けました。

入居者の多くは、約20年前にこの郊外の地域にマイホームを建て、その後年齢を重ねてこの施設にやって来た人たちです。そこで近隣の住宅を見て回りましたが、たしかに住み手が施設やどこかに行ってしまい、庭が荒れている家がたくさんあったんです。

そこで、「入居するおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に、みなさんのご自宅の庭の植物たちも施設に来たらいいのでは」と提案し、「嫁入りの庭」と名づけました。今となっては、ご自宅の植物だけでなく、庭石や井戸など、いろいろなものが施設の庭に嫁入りして共存しています。

私が設計上とてもこだわったのは、あらゆる境界=目地に土を入れたことです。こうすると、目地に植物が自然に生えて境界が曖昧になるんですね。何かと何かをどう「くっつける」かというテーマは、言い換えると、その境界をどうデザインするか、ということでもありますね。

顔
 

 

ありがとうございます。どのプロジェクトも興味深いものばかりでした。アイデアや実際のデザインはもちろんですが、使われている素材もとても面白かったです。わたしたちは接着剤メーカーなので、やっぱり素材がどうくっついているかに目がいってしまいます(笑)。

ビスを樹脂で固めたり、既存の建物にアルミサッシや錨を取り込んだり……組み合わせ方にも意外性がありますし、その結果いろいろな表情をした、とても遊び心のあるデザインが生まれていますね。素材のことをよくわかっているからこそ、可能なことだと思います。

 


【後編】に続きます。

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