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建築用
2021年09月22日
「くっつける」ことは「境界をデザインする」こと【後編】(建築家対談:山道拓人+冨永美保)
【前編】は、こちら。
山道
いろいろな「くっつけ方」、接着方法がありますが、多かれ少なかれ、建築物のどこかには接着剤が使われています。それに、ひとことで「接着剤」といっても、本当にいろいろな種類がありますね。
今日のお話の前にいろいろ調べてみましたが、その種類の多さにとても驚きました。金属用、ゴムプラスチック用、発泡スチロール用など、素材別の接着剤もそうだし、パテや目地材は、建築においてとても身近な接着剤だと思います。
やはり接着剤自体はあくまで補助的なもので、素材と素材がくっつくことが一番大切なのです。昔からこの方、ほかにくっつける方法がないときの代理、リリーフという程度のことも多く、だから使う人にとって接着剤自体あまりあまり関心も低かったと思うのですが、最近では図面上にどんな接着剤を使うかを書いてもらえるようになってきたんです。メーカーとしてはやっぱり嬉しい傾向だと感じますね(笑)。
冨永
ありきたりですが、ものを作る私たちの日常的な感覚からしても、穴を開けたりビスで留めたりする手間やコストをかけずにものとものをくっつけられるのは、接着剤の最大のメリットですね。
建築では特に、仕上げにヒビが入ってしまうとか、素材の強度を下げてしまうという理由で、穴を開けられなくて困るシーンが頻繁にあります。
くっつけるだけであれば、溶接など接着剤じゃない方法もいろいろありますし、正直なところ、真っ先に接着剤ということは少ないかもしれません。強度がやや不足していて補いたいとき、すでに決定しているデザインや仕様を変えることなく実現したいとき、なるべく簡単な方法でどうにかしたいとき。そんなときこそ、お客様からの相談が届くのです。融通がききそうだし、最後になんとかしてくれそうという期待感ですね。私たちもここが腕の見せどころだと思っています。
山道
僕は現在、山の中で村を設計していて自然素材による住宅づくりを得意とする工務店と協働しているのですが、そこでは木材もすべて国産材を使用し、合板なども使わないという、本当に自然素材を使うことを徹底したものづくりをしています。
そこで面白かったのが、建具の枠をとめるための接着糊に、お米を使っていたことでした。やはりどうしても強度はイマイチなんですが、乱暴に扱うととれてしまうことを厭わなければ、十分それでも成立するんです。接着といえば、壊れないようにガッチリとくっつけられることが重要だと至極当然に思っていたんですが、必ずしもそうじゃないんだと気づかされました。一言で「接着」と言っても、いろいろな目的や度合いが伴うとてもグラデーショナルな工程ですよね。
なるほど、とても面白いお話ですね。私たちは接着剤のメーカーなので、もちろん一生懸命にしっかりくっつけます(笑)。いかなる素材同士であっても、それらが強くくっつく方法を考えるのが仕事ですから。
しかし一方で、「絶対に剥がれない接着剤」を作ることもできません。それに、強度も十分で、速乾性や耐久性もあり、仕上がりも美しく、自然や健康に優しい素材であること……すべてを満たす接着剤を開発することは難しい。だからこそ大切になるのは、最重要ポイントがどこにあるのか、どこに強いニーズがあるのかだと思います。
冨永
たしかに、糊でもさまざまなタイプの製品があって、例えばすぐ乾く製品がもっとも良いとは限りませんね。ゆっくり乾いて貼り直せるようなタイプが使いやすい場合もあります。つけばなんでもいい、というものではありません。
山道
目地をきれいに隠したり消したりする、あるいは、いかに継ぎ目や裏側を見せずに表面をシームレスに仕上げるか、ということに心血を注いだ建築に憧れは当然ある一方で、現在、金継ぎ的に、古い建築をリノベーションしていくような手法もどんどん出てきています。
何かをくっつけるだけで図と地が反転させるようなダイナミックな手法というか。すでにものがたくさんある時代だからこそ、それらをどう組み合わせていくかということに関心が移っているのかもしれませんね。
冨永
私自身がまさにそうだと思います。継ぎ目や境界を見えなくしたり、存在していなかったように隠すのではなくて、そこにものとものの「あいだ」があるからこそ、全体も面白くて豊かになっているんだ、というデザインができたらいいと思いますね。
建築家といえば、一般的に、新しいまちや建物、プロダクトをデザインしているイメージが浮かぶと思います。しかし、今日お二人のお話を聞いて、イメージがやや変わりました。「建築デザイン」という言葉の中には、壁とタイルのような素材や物質的な組み合わせ以外にも、まちと敷地、施主と地域、コンセプトと手法など、具体的にも抽象的にも、さまざまな「くっつけ方」を考えることが含まれているのですね。ひとつの空間の中で、こんなにもいろいろな要素を結びつけているんだ、とあらためて知りました。
山道
おそらく、建築家に求められる仕事が、時代を経て大きく変わってきているのだと思います。
僕の事務所でも実際に、「こういう建物を作ってほしい」と具体的にオーダーされることよりも、「こんなプロジェクトがあるんだけど、うまく進んでいないのでチームに参加してほしい」とか、「こんな施設や場所を持っているけど活かせていないから、何かアイデアがほしい」というふうに、ソフトを含むさまざまな角度から考察して、摩擦を解消していくことを求められる案件が増えています。
社会の課題がどんどん細分化してしまって、それぞれがくっつきにくくなっている。それらをどうくっつけて解決するか。そのアイデアが建築家に求められているんでしょうね。
冨永
大きなマスタープランを描くだけでは、現在の細かなニーズには応えられませんね。
そのためのアプローチが、山道さんの場合はリサーチだし、私の場合は対話やフィールドワークなのでしょう。
方法はやや異なりますが、どのように接続させるのがよいのかを探りながら、デザインに取り組んでいるんだと思います。
山道
冨永さんがプレゼンテーションの最後に「くっつける」ことは「境界をデザインする」ことと言っていたのがとても印象的でした。
建築に限らず、何かと何かがぶつかるところにはリスクが生じるし、特に現代社会では、それをいかに回避し処理するかが問われます。
僕が紹介した下北沢の事例でも、お店がそれぞれ自由に庇を考えていいよ、というだけではダメで、それがうまく重なったり、適度な距離が取れるように考える必要があるわけです。そのために店舗用のマニュアルまで作るなんて、一見デザインっぽくないけど、そういう設計こそ、時間の経過とともに効いてくるとても大切なことなんですよね。
冨永
コロナ禍において、内と外の境界に対する考え方や価値観も、大きく変わったように感じます。
私はいま図書館の設計を進めていて、いろいろな図書館を見に行くんです。
どうしても本は太陽光や湿気と相性が悪いので、かつての図書館はそのほとんどが、窓を開けないで空調を強くかける前提で設計されています。だから空間の気密性も高いし、全体的にあまりオープンではないんですよね。
しかし図書館でさえ、今や「窓が開けられないと息苦しい」なんて言われたりする。
境界面のメッシュの粗さ・細かさも時代ごとにどんどん変わっていくのでしょうし、場所によってあり方も多様であるべきなので、こちらの感覚やデザインの解像度を上げていく必要があります。
小さな発見を繰り返しながら、既存の世界に接続してそれを更新していくような、「新しいくっつけ方」を考え続けたいですね。
【了】
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