2020年04月10日モノづくり

特別対談:神戸製鋼所 鈴木励一氏×セメダイン 秋本雅人『接合構造物への接着と溶接のハイブリッド接合への期待』(3/4)

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ハイブリッド接合の時代

顔

その意味で,接着側も溶接による構造物に一歩踏み込んで,接着と溶接,接着とボルト接合などを含めた複合的な接合によって全体の接合物の耐力を持たせようという時代になってきていると思います。おそらくここ数年で大きくブレークするのではないでしょうか。実際,最近では仕上げ材から構造材に至るまで接着のニーズが高まっています。建築分野の例で言うと,接着を併用すると単純なせん断強度に加えて耐繰り返し疲労も大幅に向上するような結果も得られるようになってきました。しかしながら,これまでは接着に興味を持ちながらも,そのリスクゆえ,採用されてきませんでした。

顔

やはり,溶接による接合と接着はそれぞれ分野の違いがあることは間違いないし,有機,無機の違いもありますし,溶接界では溶接の分野では分からないものに手を出しにくいのだと思います。サイエンスは深掘するような世界で,横に広げる世界ではないので,大学の溶接研究者の方々にとっては難しいところがあるのではないでしょうか。ですから今後広げていくのは産業界がリードすることになるでしょう。

顔

ハイブリッドの接合は自動車のみならず他の産業分野での広がりも可能性はあるのですが,それを評価できる背景,仕組み,簡単な試験からシミュレーションなどを含めると,かなりレベルが高くなってきます。単純に言って大変難しく,ハードルが上がってきます。そのため,そこを全部見られるような人材や資金も含めて当たって行かねば簡単には伸びないと思います。しかしながら可能性があるのは皆さん理解しているでしょう。

顔

日本では欧州等と比較して国がうまく取りまとめできていないように感じる部分もあります。ドイツでは国が積極的に介入して業界全体の取りまとめ役として進めていると聞いています。例えば,接着剤メーカー各社では常日頃競争はしていても,共通の利益に対しては一斉に手を組むわけです。そこに自動車メーカーをはじめとしたユーザーも参加することで,ビジネス体系として進んでいきます。それを国として主導しているわけです。

顔

ところが日本の国家プロジェクトの場合,どうしても保守性が高く,各社が壁を作ってしまい,秘密主義で資金的にも縛りが強い。さらに資金を使ったなら成果についても供出しろということになる。そうなると各社とも手を染められずにいる状況にありますね。そこはもう少しライトにならないと・・・。やはり,国が危機感を持ってもっと広げていかなければ産業界だけでは難しいのかもしれません。

顔

もう一方で,溶接と接着の違いでいうと,メーカーの規模が異なります。溶接に比べ接着の日本のメーカーは小さいです。ところがドイツの接着剤メーカーはみな大企業です。それでも日本のメーカーは海外メーカーと対等以上に戦っていかねばなりません。そのためにどうするかをよく考えなければならないと思っています。そのために,接着剤工業会でも日本溶接協会と協力して,人の力を借りてでもいいから体系をつくっていかなければならないと考えています。一方で,欧州の接着剤メーカーに比べて,日本のメーカーは規模が小さいですから,それゆえに柔軟な動きができるのではないでしょうか。その意味では,今がチャンスでもあると感じています。

顔

企業規模というのは非常に重要なことです。鉄鋼産業などはもともと軍需産業から発展してきています。自動車にしろ,造船にしろ,航空機にしろ,コンピュータにしろすべて軍需産業から育っています。軍需産業というのは馬力があって,そこから育った産業はジャンプアップしているわけです。先ほども秋本さんがおっしゃられた通り,太平洋戦争の最中から,その後に民需転換され,鉄の世界とかアルミの7000系などは日本で作られ,それらが自動車に使われたりしてきました。つまり国がかなりの資金を出してサポートして発展させてきたわけです。やはりその産業をけん引できるようなリーディングカンパニーがなければ難しいですね。今,海外のメーカーと比較してみた場合,日本ではどのメーカーもリーディングカンパニーになりたがって,お互いにしのぎを削っている。それはある程度仕方のないことなのでしょうけど・・・。

顔

われわれ溶接界から見ると接着業界の中ではメーカーとしてセメダインが一番大きいとしても,それでも単純に言って規模はそれほど大きくない。国内に数多くある接着剤メーカーと欧州の大手接着剤メーカーと比較した場合には厳しいものがある。そのために国が育てるということをやっていかなければならないのではないでしょうか。

顔

今回,ISMA(新構造材料技術研究組合)プロジェクトがそのきっかけにはなったようです。ISMAでは大阪大学名誉教授の平田好則先生が接合技術開発の中心的な役割を担われていますが,もともと平田先生はアーク溶接がご専門ですので,平田先生ご自身に接着に関して実態を知っていただくことができたと思っています。次に同様のプロジェクトを開始しなければならないと考えていただいているはずです。当社にも経済産業省の方が視察に来られることがあるのですが,どうやってオールジャパンとして海外勢と戦っていくのか,政府としてもISMAの次をどうするかを今一度考えてほしい。しかしながら,現状では自動車業界自体が少し引きぎみです。ただ,誰も今の状況でいいとは考えていないようで,個々の自動車メーカーなり,サプライヤーなり,接着だけでなくファスナーメーカーなどを育成し,引き入れていくべきです。接合業界全体を盛り上げる取り組みをしていかなければならないでしょうね。

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話はずれますが,溶接の世界は安泰なのかというと,そんなことは決してなくて,レーザ加工などは完全に欧州に席巻されています。新しい接合法に関しては,日本で独自に開発できていません。従来のアーク溶接や抵抗スポット溶接から抜け出ていない状況です。日本の接合技術が世界の中で大きなポジションを占められるのかというと,明らかに中国にも負けつつある現状です。日本ではどの分野でも単独技術では限界がきています。鉄鋼材料にしても,溶接にしてもです。やはり接合分野ではもっと横のラインを見て視野の広がりが必要となって盛り上げていく時期にきているのでしょう。木造建築の方がはるかに接着や機械的接合が発展しています,溶接ができないものですから。今さらながら溶接以外の接合法に非常に感心することが多いです。

顔

先日,ある造船会社を訪れる機会があったのですが,造船分野でもすでに接着が適用されてきているようです。船首や船尾のCFRPの構造接着でアクリル系の接着剤を使用しているとのことでした。しかし結局,みなさんからは有機は分からないと言われることも少なくありません。

建築の世界では最近,素材として木材を取り入れる動きが進んでいます。木材と鉄のハイブリッド接合が検討されています。そんな中で従来の鉄―鉄や鉄―コンクリートに用いられている接合方法とは異なる方法が必要になり,われわれ接着剤メーカーへ問い合わせいただく機会も増えています。鉄―コンクリートの接合では用いられることの少ない接着ですが,やってみると面と面で接合することにより,耐震補強や浸水性,防水性など新たな可能性が見えてきました。結果,それまでほとんど検討されることのなかった構造材への適用検討が世の中に広がり始めています。

顔

しかしながら,有機材である接着剤と無機材である鉄やコンクリートではなかなか言葉が合わないことがあります。このためには,有機と無機が交わるような学問体系をつくっていく必要があると感じます。溶接と接着にも同じことが言えると感じています。例えば,私の属している接着学会は有機高分子系をベースとした研究者がほとんどで,無機材料である溶接に関してはそもそも単語が異なると感じています。まずは違うということを認めたうえで,お互いが歩み寄って,共通の言葉を作っていくことから取り組んでいければいいですね。

顔

自動車製造分野でもまだ有機材料のことはなかなか十分に理解されていないと感じる部分もあります。接着強さ含めた基準や評価方法は,疲労特性含めて,どうしても従来の溶接を中心とした方法がベースになります。例えば接着剤は有機物なのでヤング係数は環境温度や変形速度によって大きく変化します。それをどのようにパラメータとして接合部の挙動に取り入れればいいのかということでも明確な基準はできていません。有機の材料を接合面に使用する際の挙動を体系的に研究する研究者が大学・研究機関に出てくることを期待しています。

顔

何事もけん引される先生の存在は大きいですね。サイエンスを突き詰めると言ってもどの分野でもすでに行き着いているのではないかと思いますが,でもシミュレーションの分野では接着の分野を手がけ始めている先生も出てきています。シミュレーションをするためにはパラメータを入力しなければなりませんので,要素技術を研究する先生が登場してくると今後の展開が楽しみになります。


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